介護のお役立ちコラム
2021年12月20日、国会で介護職員の賃上げが決定されました。岸田内閣による過去最大とも言われるの約55兆円超経済対策の一環で、新型コロナウイルス感染症の拡大によって疲弊しきった経済の回復、科学技術立国を目指した成長戦略などを視野に入れると同時に、介護職員・看護職員の賃上げも盛り込まれています。
介護職員の賃上げの現状や今後の課題、介護サービスの利用者への影響について解説していきます。
介護職員に対して毎月3%(9,000円)程度の賃上げを実施
2021年12月20日、国会で介護職員の賃上げを含んだ補正予算案が正式に決定されました。以前より、岸田首相が名言していた介護職員および看護職員の賃上げが実現されるわけです。2022年2月から、後述の「介護職員処遇改善加算」を取得している介護施設などの現場で働く介護職員を対象に、毎月3%(9,000円)程度が給与にプラスされます。
今回の賃上げは、2022年9月まで全額公費からの支出です。介護職員への賃金アップは同年9月以降もそのまま継続され、財源は介護報酬への切り替えが検討されています。
内閣府の資料によると、介護職員の賃金は全産業の平均額と比較すると約6万円ほど低いことがわかっています。こうした状況に対して岸田首相は「公的価格のあり方を抜本的に見直す」と明言しており、介護を含めた福祉分野の格差の是正が期待されます。
■参考文献
なぜ介護職の賃金は低いのか?過去に国は待遇改善を実施してきたがまだ不十分
介護職員の賃金が低い理由としては、以下のような事情が考えられています。
- ・介護の専門性が認知されていない
- ・介護報酬と人員配置に決まりがある
- ・非正規雇用(パート)の人が多い
賃金の低さは介護職員の大きな離職要因となっており、国はこれまでにも対策を打ってきました。
たとえば、厚生労働省は、2012年に介護職員処遇改善加算と呼ばれる介護職員の待遇向上を目的とした加算を策定しています。この介護職員処遇改善加算は、いわば正当な人事評価を整えるためのもの。賃金体系や研修制度、昇給制度を設けることで一人あたり最大3万7,000円/月の加算を受け取ることができます。
また2019年には、介護職員処遇改善加算に上乗せされる「介護職員等特定処遇改善加算」も創設され、介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅱ)を取得した事業所の介護職員の賃金は月額で約18,000円アップしています。
しかしそれでも介護職員の賃金は全産業の平均に届いておらず、不十分というのが現状なのです。
2021年度には、介護報酬が改定されて0.7%のプラスとなりました。これにより、介護サービスを実施した事業所の増収にはつながるものの、事業所はその利益を設備投資や老朽化した建物の耐震工事、建て替え費用などに充てることも可能なため、必ずしも現場の介護職員の給与として還元されるとは限りません。
そのため、今回の賃上げの配分ルールがどうなるかという点にも注目が集まっています。
賃上げの対象者は、現場の介護職員と限定的な内容に
2022年の賃上げにより給与が上がることは、現場で働く介護職員にとっては朗報です。ただし、まだ検討すべき課題もあります。
今回の賃上げは、あくまで介護施設で働く介護職員を対象にした措置です。そのため、直接的に身体介助に関与しない居宅介護支援事業所に所属する介護支援専門員(ケアマネジャー)などは賃上げの対象外となりました。
介護の仕事は、医療や看護、リハビリテーションなども含めて多職種が横断的にかかわるものです。そのため、特定の職種に限定した賃上げは不公平感を招く可能性もあるでしょう。
介護職員の賃上げによる介護サービス利用者への影響とは?
賃上げによって給料に不満をもつ介護職員の離職を防げれば、職場で長く働いてもらえるようになります。そうすると介護職員の経験値が上がり、その事業所やひいては介護業界全体の介護の質の向上を実現できるでしょう。
また介護職員の精神的な余裕のなさなどに起因する虐待事件や事故の予防や、将来的な介護人材の不足と急激な高齢化によって発生する「介護難民」の問題解消にもつながることも期待できます。
一方で、気になるのが財源の確保です。2021年10月以降の賃上げについては、現在、介護報酬から財源が充てられる予定です。その場合、介護サービス利用者の負担が一部増えることになります。
また、現役世代(40歳以上)に対する介護保険料の徴収額が上がる可能性も考えられるため、全国民に関係することだと言えるでしょう。
介護人材と財源確保のためにできること
今回は、介護職員の賃上げの現状についてまとめました。今後の介護報酬改定によって、介護サービス利用者も一部負担を求められることになるでしょう。介護業界の人材と財源の確保は今や、全国民が自分ごととしてとらえるべき国の課題なのです。
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