介護のお役立ちコラム
熟考に熟考を重ね、やっとの思いで見つけた老人ホーム。将来の安心を手に入れたと思いますが、もしも、そのホームが倒産してしまったら......。
信じがたいことかもしれませんが、成長産業と称される介護業界でも倒産する事業者が年々増えています。支払った入居一時金はどうなるのか? 入居者の行先はどうなるのか?
今回は、介護事業者の倒産が増えつつある背景と、もしも入居中の老人ホームが倒産してしまった場合の対応策、補償内容について説明します。
<東京商工リサーチによる「2017年度 老人福祉・介護事業の倒産状況」>
倒産した事業者を業態別に見てみると、「通所介護(デイサービス)」または「訪問介護」が91件を占めており、「有料老人ホーム」は9件、サービス付き高齢者向け住宅などを含む「その他の老人福祉・介護事業」は8件ほどに留まりました。
通所介護や訪問介護については、規制緩和によって参入のハードルが下がったこと、事業スタートへの初期投資が居住系介護サービスに比べはるかに安価であることから、安易に「介護は儲かる」と考えた新規事業者が一気に参入した結果、利用者の奪い合いになり収益が見込めなくなったことが考えられます。
また、主な利用者層である「要支援」が介護保険の適用から外された結果、利用者が減ったことも原因の一つです。経営者が十分なノウハウを持たずに参入したこともあり、事業が行き詰まったときの打開策を講じられなかったことも、相次ぐ倒産に拍車をかけたと言えるでしょう。
その一方で、倒産した有料老人ホームについては、事業者が無理な事業拡大を図り、ホームの数を必要以上に増やした結果、想定していたほどの入居希望者が集まらず資金繰りが悪化したことが理由に挙げられます。施設の数を増やせば、当然配置する介護職員の数も確保しなくてはなりません。ところが介護士も集まらず、法律で定められた職員配置の規定をクリアできないまま職員一人ひとりの負担が急増し、仕事に嫌気が刺したり体調を崩したりして辞めていく職員が後を絶ちませんでした。介護士の定着率の悪さも倒産の一因と考えられます。
◎太田差惠子さんに聞いた失敗しない老人ホームの選び方
◎老人ホームの見学でチェックしておきたい10のポイント
●広告の内容とその頻度
入居者募集の広告を大々的に、長期的に出している事業者にも注意が必要かもしれません。経営母体が大手であるほど広告にかける費用を捻出出来るとも考えられますが、広告や入居案内のパンフレットが派手な施設ほど、入居者が少ない、資金を得たいなどの背景が考えられます。その事業者が出している求人広告も選別のポイントです。長期にわたり求人広告を出し続けている施設は、職員が集まらず十分なサービスを提供出来ていない、または離職率が高く職員が定着していないと考えられます。求人広告を目にする機会は少ないかもしれませんが、新聞の折り込みチラシ、駅やコンビニの店頭のラックに置いてある求人情報誌などから確認することが出来ます。
入居するホームを決める前に、契約内容の確認として重要事項説明書の説明があります。その際、事業者が倒産した場合、どういった措置が取られどの程度の金額が返金されるのか、納得のいくまで説明してもらうようにしてください。
それでは万が一、入居している老人ホームが倒産した場合、入居者の処遇はどうなってしまうのでしょうか?
一般的な企業の場合、民事再生法を適用し、別会社(新会社)に事業譲渡し再建の道を歩む方法が取られます。介護業界でも同様の事業譲渡がなされて再建を図るケースがあります。しかし、介護事業者の場合、その多くが民事再生法による再建を目指すのではなく、会社自体が消滅してしまう「事業消滅型の破産」を選んでいます。この場合、第三者による事業継続が見込めなくなるため、入居者は一定の期間内に退去しなくてはいけません。
退去を迫られた場合、ケアマネジャーの努力にもよりますが、比較的安価な特別養護老人ホームへの転居が決まるケース、ほかの有料老人ホームに移動になるケース、在宅に戻るケースなどが考えられます。
また退去にともなう引っ越し費用などはすべて入居者負担となります。居住系介護事業者の場合、大手資本などに買収されるケースもありますが、運よく事業譲渡できた場合でも、新たに引き継いだ会社の規定に従う必要があるため、入居当初取り決めた契約内容の変更を迫られることや、職員の入れ替えによる介護サービスの質の変化などが生じるリスクもあります。
そして、もう一つ利用者にとって大きな悩みの種となるのが入居一時金の返還です。倒産時にどの程度の金額が補償されるのかは事業者によって異なるところでもあります。この説明についても重要事項説明時に確認しておく必要があります。
事業者の規定とは別に、2006年4月以降に設立された有料老人ホームについては入居一時金の保全措置である「入居者生活保障制度」が義務付けられるようになりました。これは公益社団法人有料老人ホーム協会による制度で、事業者は入居者から支払われた入居一時金から20万円を協会に支払い、事業者が倒産した場合、協会から入居者へ500万円の補償金が支払われる制度です。このように有事の際の補償がいくつか講じられていることもあり、老人ホームへの入居を考えている人、また現在入居している人が安心出来るような環境が整ってきています。
◎老人ホームの費用との向き合い方【太田差惠子さんインタビュー】
◎増加する「都市型軽費老人ホーム」とは?
◎特別養護老人ホームと有料老人ホームの比較〜経験者に聞いた満足した点、不満な点〜
信じがたいことかもしれませんが、成長産業と称される介護業界でも倒産する事業者が年々増えています。支払った入居一時金はどうなるのか? 入居者の行先はどうなるのか?
今回は、介護事業者の倒産が増えつつある背景と、もしも入居中の老人ホームが倒産してしまった場合の対応策、補償内容について説明します。
直近5年間で倍増した介護事業者の倒産件数
株式会社東京商工リサーチの発表によると、2017年度の介護事業者の倒産件数は115件に上り、介護保険法が施行された2000年以降、過去最多の数字となりました。<東京商工リサーチによる「2017年度 老人福祉・介護事業の倒産状況」>
倒産した事業者を業態別に見てみると、「通所介護(デイサービス)」または「訪問介護」が91件を占めており、「有料老人ホーム」は9件、サービス付き高齢者向け住宅などを含む「その他の老人福祉・介護事業」は8件ほどに留まりました。
通所介護や訪問介護については、規制緩和によって参入のハードルが下がったこと、事業スタートへの初期投資が居住系介護サービスに比べはるかに安価であることから、安易に「介護は儲かる」と考えた新規事業者が一気に参入した結果、利用者の奪い合いになり収益が見込めなくなったことが考えられます。
また、主な利用者層である「要支援」が介護保険の適用から外された結果、利用者が減ったことも原因の一つです。経営者が十分なノウハウを持たずに参入したこともあり、事業が行き詰まったときの打開策を講じられなかったことも、相次ぐ倒産に拍車をかけたと言えるでしょう。
その一方で、倒産した有料老人ホームについては、事業者が無理な事業拡大を図り、ホームの数を必要以上に増やした結果、想定していたほどの入居希望者が集まらず資金繰りが悪化したことが理由に挙げられます。施設の数を増やせば、当然配置する介護職員の数も確保しなくてはなりません。ところが介護士も集まらず、法律で定められた職員配置の規定をクリアできないまま職員一人ひとりの負担が急増し、仕事に嫌気が刺したり体調を崩したりして辞めていく職員が後を絶ちませんでした。介護士の定着率の悪さも倒産の一因と考えられます。
倒産しない安心できる老人ホームの見分け方
では、これから老人ホームへの入居を考えている人は、施設をどのように見極めればいいのでしょうか? まずはその施設の経営母体がどのような団体であるのか事前に調べておくと安心です。他に信頼できる老人ホーム選びについて、一体どのようなポイントがあるのでしょうか?●経営母体の安定性と社会的信用
有料老人ホームは、医療法人や民間企業によって運営されています。介護関連事業を専門に行っているところもあれば、介護以外の大手資本が参入しているケースもあります。大手企業の傘下であれば、その知名度もあり倒産とは無縁に思えるかもしれませんが、親会社自体が長年介護に携わってきたスペシャリストでないがゆえ、ほかの事業領域で経営が悪化した場合、あっさりと介護事業を切り捨て、他社に売却する可能性もあります。知名度だけで判断せず、代表者がどのような理念を掲げているのか、また直近の財務状況もホームページなどで確認しておくとよいでしょう。●設立してから一定年数が経っている
前述の東京商工リサーチの発表によると、倒産した事業者のうち約4割が設立してから5年以内であることがわかりました。大多数が通所系・訪問系介護事業者ではありますが、いずれも経営における中長期的ビジョンが不十分だったと指摘されており、同様のことが居住系のサービスにも言えるでしょう。●一定数の職員がいる
介護職員の数は、介護サービスの質に大きく影響します。どこの施設でも人手不足が問題となっていますが、ある程度の人員が確保できているか、施設見学の際には厳しくチェックしておくとよいでしょう。職員の数については、現場で働くスタッフを、名前や顔写真と保有している資格などと併せて建物内に掲示している老人ホームも目立ちます。こういった掲示物からも、その施設の雰囲気が伝わるものなのでぜひ確認するようにしてみてください。◎太田差惠子さんに聞いた失敗しない老人ホームの選び方
◎老人ホームの見学でチェックしておきたい10のポイント
●空室の数が少ない
地域や場所によっては入居希望者が殺到する老人ホームもありますが、反面、入居者の数が少なくやや閑散としているホームもあります。そういった事業所は、施設維持費や人件費がかさみ収支が安定していない可能性があります。入居率(=部屋の稼働率)も事前に確認しておくことが大事です。●広告の内容とその頻度
入居者募集の広告を大々的に、長期的に出している事業者にも注意が必要かもしれません。経営母体が大手であるほど広告にかける費用を捻出出来るとも考えられますが、広告や入居案内のパンフレットが派手な施設ほど、入居者が少ない、資金を得たいなどの背景が考えられます。その事業者が出している求人広告も選別のポイントです。長期にわたり求人広告を出し続けている施設は、職員が集まらず十分なサービスを提供出来ていない、または離職率が高く職員が定着していないと考えられます。求人広告を目にする機会は少ないかもしれませんが、新聞の折り込みチラシ、駅やコンビニの店頭のラックに置いてある求人情報誌などから確認することが出来ます。
入居するホームを決める前に、契約内容の確認として重要事項説明書の説明があります。その際、事業者が倒産した場合、どういった措置が取られどの程度の金額が返金されるのか、納得のいくまで説明してもらうようにしてください。
もしも老人ホームが倒産したら...... その後の措置と補償について
それでは万が一、入居している老人ホームが倒産した場合、入居者の処遇はどうなってしまうのでしょうか?
一般的な企業の場合、民事再生法を適用し、別会社(新会社)に事業譲渡し再建の道を歩む方法が取られます。介護業界でも同様の事業譲渡がなされて再建を図るケースがあります。しかし、介護事業者の場合、その多くが民事再生法による再建を目指すのではなく、会社自体が消滅してしまう「事業消滅型の破産」を選んでいます。この場合、第三者による事業継続が見込めなくなるため、入居者は一定の期間内に退去しなくてはいけません。
退去を迫られた場合、ケアマネジャーの努力にもよりますが、比較的安価な特別養護老人ホームへの転居が決まるケース、ほかの有料老人ホームに移動になるケース、在宅に戻るケースなどが考えられます。
また退去にともなう引っ越し費用などはすべて入居者負担となります。居住系介護事業者の場合、大手資本などに買収されるケースもありますが、運よく事業譲渡できた場合でも、新たに引き継いだ会社の規定に従う必要があるため、入居当初取り決めた契約内容の変更を迫られることや、職員の入れ替えによる介護サービスの質の変化などが生じるリスクもあります。
そして、もう一つ利用者にとって大きな悩みの種となるのが入居一時金の返還です。倒産時にどの程度の金額が補償されるのかは事業者によって異なるところでもあります。この説明についても重要事項説明時に確認しておく必要があります。
事業者の規定とは別に、2006年4月以降に設立された有料老人ホームについては入居一時金の保全措置である「入居者生活保障制度」が義務付けられるようになりました。これは公益社団法人有料老人ホーム協会による制度で、事業者は入居者から支払われた入居一時金から20万円を協会に支払い、事業者が倒産した場合、協会から入居者へ500万円の補償金が支払われる制度です。このように有事の際の補償がいくつか講じられていることもあり、老人ホームへの入居を考えている人、また現在入居している人が安心出来るような環境が整ってきています。
終わりに
有料老人ホームに代表される居住系介護事業者の倒産件数は決して多くはないものの、ここ数年は毎年のように発生しています。入居者の「安心」を保障しなくてはならない立場の事業者に、私たちの老後を託すことは出来るのでしょうか?老人ホームを選ぶ際には、実際の施設の雰囲気なども大事ですが、事業者または経営母体がどういった会社なのか入念にチェックしておくとより安心でしょう。こちらの記事もチェック!
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