介護のお役立ちコラム
世の中には「老人ホームの選び方」の情報が溢れています。良い老人ホームを選ぶ前に、正しい情報を選択しなくてはいけないという状況で、これから老人ホームを選ぼうとする方にとっては、「一体なにが正しいのか?」と混乱してしまいます。信頼できる指針やポイントを見つけるためにはどうしたらいいのでしょうか?
今回は、20年以上にわたり、老人ホームや老親介護の著書や多様なメディアで情報を発信してきた介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんに、「老人ホームの選び方」についてお話をうかがいました。
太田 差惠子(おおた さえこ) 20年以上にわたる取材活動より得た豊富な事例を基に、「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」等の視点で新聞、テレビなどのメディアを通して情報を発信する。企業、組合、行政での講演実績も多数。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。一方、1996年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年5月法人化した。現理事長。2012年3月立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修士課程修了(社会デザイン学修士)。 ●主な著書 「親の介護で自滅しない選択」(日本経済新聞出版社)/「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」「高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本」(共に翔泳社)/「マンガで知る! 初めての介護」(文、監修:集英社)/「老親介護とお金」(アスキー新書)/「遠距離介護」(岩波書店)など |
なぜ老人ホームとのミスマッチが起きるのか?
--老人ホームに入居してみたはいいが、「予定より費用が多くかかった」「ケアが行き届いていない」という話をよく聞きます。
太田差惠子さん(以下、敬称略)「基本的なところではあるのですが、介護目的の場合は、すぐに老人ホームへの入居を考えるよりまずは在宅でサービスをいっぱい使ってみて『やはり難しいなぁ、きついなぁ』と感じたら、高齢者施設への入居を考える。そして、いきなり入居じゃなくて、ショートステイを試してみて段階的に進むのが良いですよね」
--どうしても費用面で選択肢が少なくなるという方もいると思います。
太田「費用から考える人が多いですが、まず考えるべきはお金ではありません。お金から入ってしまうと、どうしてもどういう方針で、どういうことをやっている施設なのか?という視点が弱くなってしまう。わかりやすいのは、住宅型有料老人ホームと介護付き有料老人ホームの比較です。住宅型は介護型に比べて、パッと見は安く抑えられるように見えますが、介護サービスを使用するほど費用がかかりますし、施設や運営母体によって設備やサービスが全く異なるので、注意が必要です」
--しっかり下調べをして見学に行くのは必須ですね
太田「しかし、セミナーや講演を行うと、見学をしないで施設を決めたという方が多くいらっしゃるんです。そのひとつの原因として、毎日の忙しさがあります」
--見学に行く時間がとれないということでしょうか?
太田「高齢になると親御さんが病気やけがなどで倒れて入院をされることも増えます。入院中は何かと付き添いが必要だし、退院後は介護が......。多くの方が仕事をしているため、それが繰り返されると施設への入居を考えるようになるのです。緊急性が高ければ高いほど『空いている』という理由で決めてしまいがちです」
--施設のことをよく知らないまま見学もしないで、"老人ホームだから"という理由で決めてしまうんですね。
太田「多くの方が介護に直面して初めて老人ホームのことを調べるので、種類があること自体を知らないケースも珍しくありません。そのような背景で施設を決めてしまうと、やはりミスマッチが生まれてしまいます」
見学に行くタイミングは、老人ホームを調べる前?
--では、実際にどのような視点で老人ホームを選べばいいのでしょうか?
太田「よく『良い老人ホームとはどういうものですか?』と聞かれます。当たり前なんですが、入居する方の相性によるところが大きいので、一通りではないのです。望んでいることに、施設が応えられるかが大きなポイントになります」
--どういう目的で入居するかによって選び方も変わりますよね。
太田「例えば、見学に行くと『太田様』と『太田さん』と呼ぶ施設があります。私自身は、お客様扱いしてくれるところは苦手なのですが、『〜様』って呼ばれることを好まれる人もいらっしゃいますよね。もっと言えば、週に何回お風呂に入れるかとかも、施設によって異なります。お風呂嫌いな方ならこだわらないかもしれませんが、お風呂好きの方には大切なポイント。こういうことの積み重ねで、結果、Aさんにとっては良い施設だったけど、Bさんにとっては良くない施設ということがよくあります」
--特養、有料老人ホーム、サ高住、グループホームなどのカテゴリだけで判断するのも難しいということですね。
太田「極端な例ですが、比較的元気な男性が入居したら、要介護度が重い女性ばかりの施設だと馴染めないですよね。ですので、見学は必ず行ってほしい。有料老人ホームだと営業の方が案内してくれるケースもありますが、できるだけケアマネジャーや施設長と話して理念を聞くことが重要です。施設に行くと様々なスタッフがいますが、どんなコミュニケーションを取っているかを確認するのも良いでしょう。入居者とすれ違っても挨拶をしない施設もあります」
--見学をしないと絶対にわからない部分ですね。
太田「施設も多様であれば、ケアマネジャーや施設長も実に色々な方がいます。お食事を試食させてくれる施設もありますし、食器が割れないようにプラスチックの施設もあれば、陶器を使用している施設もあります」
--食事だけでも季節感や味、栄養管理などチェックすべき箇所は多くあります。
太田「私がよくアドバイスしているのは、とりあえず3つくらいの老人ホームを見学してくださいということです。見学をすることで高齢者施設がどういう場所であるかが理解できると思います。就職活動と似たような感覚です。最初はどういう企業があるかわからないから、会社訪問や説明会に行きますよね?そこから自分なりの指標が生まれてくる。お給料だけじゃない面も重視するようになります」
太田さんからのアドバイス①
- 見学は必ず行く
- 老人ホームという施設を知る
見学は1人じゃない方がいい。重要事項説明書は事前にチェックする
--まずインターネットや資料などで施設を選ぶ前に見学をして、老人ホーム自体を理解するという視点は、非常に重要だなと思いました。
太田「もちろん老人ホームの種類や特長を理解されている方は、目星をつけてから見学する流れで問題はありません。見学に行く際は、入居される本人が行けることがベストです。それで施設を見ていくうちに、やっぱり在宅介護にしようという選択も生まれてくるかもしれない。いまこの記事を読んでいる方で、介護をされていたり、老人ホームへの入居を考える方は、とりあえずどこでもいいですから見学にいくことをおすすめします」
--ご両親が認知症を発症されている、なかなか入居予定者が見学にいくのは難しいですよね。
太田「何かしらの事情でご本人が見学に行けないのであっても、できれば1人ではなくきょうだいや配偶者、お子さんでも、誰かと一緒に行くといいと思います。もしくは同年代のご友人など2人以上で見学してください」
--どういった理由でしょうか。
太田「1人でいくと、見落としがどうしても出てきてしまうんです。見学終了後に、感想や意見を出し合うことで、自分たちが施設に求めている指標が明確になってきます。親のことをよく知るきょうだいの視点が加味されると、判断材料も増えます。親族と出掛けることが難しい場合も、友人と一緒に見ると、客観的な視点が入りますよ」
--終の棲家になることを考えると、安易な選択はできませんよね。
太田「その通りです。ですので、できるだけ見学のお願いも自分で施設に電話してください。電話の対応ひとつで施設の雰囲気が伝わります。そして、施設見学に行った際に、『重要事項説明書をいただけますか?』と聞いてみてください」
--契約段階前に貰えるものなのでしょうか?
太田「その場でくれる施設と、後から郵送してくれるところなどありますが、貰えます。『読んでもわかりますか?』とよく言われますが、本来は高齢者が読むものですので、わかりやすく書かれています重要事項説明書は、契約まで行くと必ず入手できる書類ですが、その段階ではもう引き返しづらい段階になっています。早めに貰って中身を確認しておくのが良いでしょう」
--老人ホームとの契約で揉める大きな原因のひとつに重要事項説明書の確認を怠ったというのがあります。
太田「いくつかの老人ホームを比較されるのが良いでしょう。例えば東京では、都の福祉保健局が重要事項説明書の一覧をインターネットで公開しているので、見ることもできます。試しに、いくつか見てみるといいですよ」
太田さんからのアドバイス②
- 見学は1人では行かない。
- 重要事項説明書は見学の際に貰うようにする
◎有料老人ホームの契約時に注意すべき費用面でのトラブルを防ぐために
◎東京都福祉保健局「東京都有料老人ホーム重要事項説明書一覧」
良い老人ホームではなく、合う老人ホームを選ぶ
--こういった段階を踏むことで、ミスマッチの可能性を減らしていけますね。
太田「多くの人が切羽詰った状況で、老人ホームへの入居を決めるためミスマッチが起きやすいのです。体験入居ができる施設でしたら、体験入居をするようにしましょう。入居一時金がある有料老人ホームですと、クーリングオフの制度があるはずなので確認してください。施設を検討する時間があまり確保できなかった方は、一度入居してみてクーリングオフの期間内に合うか、合わないか決めるくらいの気持ちだと、時間の余裕がでてくるかと思います」
--最終段階での体験入居は必ずやっておきたいですよね。
太田「また病院などから退院されて、すぐに施設を探さないといけないような場合は、とりあえず老人保健施設に入ることを検討するといいでしょう。老人保健施設は、介護保険で入る施設で、入居期間は3カ月くらい。永続的に入るのではなく、リハビリなどを受けて在宅復帰を目指すための施設です。その間に、今後のことを考えることができます」
--確かに老健ならば、しっかりと次の準備ができそうです。
太田「慌てて施設に入ってしまって、ましてや入居一時金が必要な施設だと大変です。老人保健施設は要介護1から介護保険で入れますし、特養ほど混んでいません。有料老人ホームを探している方でも、納得のいく施設が見つからないときは、老人保健施設のことを覚えておくといいと思います」
--"良い老人ホーム"という考え方ではなく、"合う老人ホーム"を探すということですね。
太田「繰り返しになりますが、老人ホームは施設ごとに異なります。医療依存度が高い方は違う視点が必要ですし、介護付き有料老人ホームでも看護師が24時間体制で常駐しているところは多くありません。施設によっては、依存度が高くなると出ていかないといけないケースもあります。認知症が軽いうちにサ高住に入居したけど、重くなって退去を求められたなんて人の声も聞きます。特養では病院への同行費用も介護費に含まれていることもありますが、民間施設では病院に連れてもらうといくら掛かるか?を確認する必要もあります」
--勉強になりました。他にも気をつけることはありますか?
太田「親子が離れて暮らしていたら、親の近くか子の近くかどちらの施設を選ぶべきかという相談をよく受けます」
--遠距離介護の問題ですね。
太田「特養の場合、介護者である家族が遠方にいると、入居の優先順位が高まります。一方で有料老人ホームだと地方は都市部に比べて費用は安め。またグループホームだと住民票のある高齢者のみが入居対象となります。これらの事情から、親の住む地域で入居されるケースが多いです。ただし、子が施設に行くには、交通費がかかり時間の確保も大変です」
--子が住んでいる地域の施設だとどういう問題がありますか?
太田「やはり住む地域が突然変わるというのは、親にとっては大きなストレスになります。特に食事の味付けもありますし、方言も意外と影響が大きくて馴染めない要因になります。入居する立地も含めて考えないとミスマッチが起きる可能性があります。でも、近くだと、必要なときにすぐに会いに行けるのはメリットですね。入退院が頻繁とかいったケースでは呼び寄せる方も珍しくありません」
--費用や設備、施設の種類、立地も含めて、ご家族に合った老人ホームを探すことが、結果として良い老人ホームを見つけることに繋がるということですね。
太田さんからのアドバイス③
- 時間がない人は老人保健施設やクーリングオフを利用する
- "入居者に合う"施設を探す
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