介護のお役立ちコラム
2000年にスタートした介護保険によって、在宅でも施設に入居しても安心して余生を過ごせる環境が整ってきましたが、少子高齢化に歯止めが効かない現在の日本において、介護保険の財源も、介護にあたる人の手もひっ迫してきています。
このような中、わが国では介護サービスだけに頼ることなく、人の手を借りながらも、住まいのある地域の中で自立した生活を送るための「地域包括ケアシステム」を構築・実践してきました。今回は、地域包括ケアシステムの歴史やこれからの問題点などについて触れていきます。
後期高齢者が急増する2025年を目途に整備
「地域包括ケアシステム」は、重度の要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体系の構築を目指すものです。
政府は2025年(令和7)年を目途に地域包括ケアシステムの整備を徹底する方針を打ち出していますが、同年は第1次ベビーブームのときに生まれた、いわゆる団塊の世代が一斉に後期高齢者(75歳以上)となる年にあたります。そのため、介護に必要とされる費用がより一層、増大すると考えられます。
もともと地域包括ケアシステムは、2005年の介護保険改正時に寝たきりなど重度の要介護状態にならないための「介護予防」が提唱されたことに始まります。同改正時に、現在の7段階の要介護認定(要介護1~5、要支援1・2)が区分されました。
将来的に介護が必要となりそうな「要支援1・2」の高齢者に対しては、自治体の「地域支援事業」を通じて介護予防プログラムが提供されるようになりましたが、このとき、地域住民に対する医療や介護の相談窓口として「地域包括支援センター」を全国各地に創設することが決定しました。
その後、2011年の同法改正時に「地域包括ケア」の概念が打ち出され、介護と医療、住まい、介護予防、生活支援サービスを総合的に提供していくための地盤が固められました。2014年の改正時には医療保険と介護保険の見直しを一体でおこなうなど「地域包括ケアシステム」が確立されました。
【関連記事】
医療・介護などで問題が噴出する「2025年問題」に迫る
地域包括ケアシステムの基本となる5つの要素と各種間連携
冒頭で述べたとおり、地域包括ケアシステムは以下の5つが総合的かつ横断的に提供されることを目的としています。それでは各分野のポイントを確認していきます。
●住まいと住まい方
第一に、住居を構えその場所で生活していけるだけの経済基盤があることが求められます。医療や介護サービスを受けるにしても、住まいが確約されていることが大前提です。同時に、日常生活を送るのに必要なスペースの確保や、安全(セキュリティやバリアフリー)や衛生状態が守られているかも重要なポイントです。
●医療と看護
地域の中で日常のかかりつけ医となる開業医院や、緊急時に検査ができる大病院など医療面でのインフラ整備は必須です。その上で、自宅で暮らす高齢者に在宅で医療を提供する「訪問医療・看護」の整備が求められます。健康具合が思わしくなく通院を負担に感じる高齢者も多くいるので、訪問医療・看護へのニーズはとても高いのです。
また、通院にかかる時間や交通費の節約にもつながりますし、病院の混雑緩和の効果も期待できるため、病院を受診する一般の人にとってのメリットもあります。
●介護とリハビリテーション
通所型サービス(デイサービスやデイケアなど)の事業所や、訪問介護を受け入れやすい高齢者向けのマンション(サービス付き高齢者向け住宅)などの整備が求められます。またこれらも、地域の中で将来的にどれくらい高齢者が増え、住み続けるのかを予測した上で整備していく必要があります。
●予防
自治体の地域支援事業による介護予防プログラムに参加することで、ADL(日常生活動作)や筋力の維持・向上を図るばかりでなく、地域社会の中で他人と接することによって受ける刺激は、生きる意欲の向上にもつながります。
また最近、各自治体が高齢者の持つ技術や経験を生かして、地域住民に対し家事手伝いや軽作業といったサービスを提供する「シルバー人材活用」が活発になっています。高齢者の収入にもなりますし、短い時間で無理なく働ける仕組みを定着させることも、長い目で見た介護予防につながることでしょう。
●生活支援
生活支援を必要とする人は、身寄りがない人、諸事情により家族と一緒に生活ができない人、経済面で問題のある生活困窮者など多岐にわたります。医療や介護の必要がないまでも、安否確認のための定期的な訪問から炊事や掃除などの生活支援まで、軽微なサポートだけで暮らしが豊かになる人もいます。そのような高齢者を地域でカバーしていく体制づくりが求められます。
この5つの中でも、従来縦割りだった医療と介護の連携は特に重要なポイントとなります。地域包括ケアシステムの浸透によって在宅で医療と介護両面のケアを受ける高齢者が増えることが予想されますが、どのようにケアを提供していくべきか、担当するケアマネジャーの裁量が試されることでしょう。
地域包括ケアシステムの今後の課題
2025年を目途としながらも、すでにいくつもの自治体で地域包括支援事業はスタートしています。しかしながら、いくつか課題も見えてきています。
●地域格差
都心部など人口の多い場所と地方のように少ない場所とでは、地域包括ケアシステムの充実度も変化していきます。法整備したとしても、人手が少なくシステムが機能しないことも往々にして考えられます。地域包括ケアシステムを運転させるための財源も地域によってばらつきが生じるはずです。
●ボランティアの活用と教育
厚生労働省は地域包括ケアシステムを機能・継続させていくため、ボランティアの力にも期待しています。しかし、ボランティア人材を集めるにも地域格差の問題は無視できません。
大手企業は社会貢献活動に力を入れていますし、大学も学生にボランティア活動を奨励しています。もし地域に企業の事業所や大学とその寮などがある場合、自治体、住民と連携して地域包括ケアシステムの重要性を理解してもらい、参画してもらうための普及啓発活動を展開していくことがカギになりそうです。
●24時間のサポート体制
現在の介護保険サービスでは、夜間帯の訪問介護は介護保険の適用範囲外となっており、自費で賄うにしても、24時間体制でサービスを提供できる事業者も限られます。
深夜にボランティアを動員することも現実的ではありません。そのため、24時間体制で介護が必要な在宅高齢者を誰が見るかも課題となってきます。
●ケアが介護サービス主体になってしまう
要介護認定を受けている高齢者の場合、提供すべきサービスは、原則担当のケアマネジャーの判断に委ねられます。この場合、介護保険サービスありきでケア内容を決められてしまう可能性があり、地域包括ケアシステムが掲げる"総合的に~"の理念から外れてしまいます。
従来、介護保健によって提供されるはずのサービスをボランティアなどが代行すれば収益が減ってしまうため、介護サービスを展開する事業者にとっては悩ましい問題でもあります。
考え方の基本となる4つの「助」
厚生労働省は地域包括ケアシステムのキーワードとして、「自助・互助・共助・公助」の重要性を説いています。地域包括ケアシステムが機能していくためには、この4つの「助」の連携が不可欠と考えられています。
「自助」はまさしく自分自身を助けること。できるかぎり自分の力で身の回りのことをおこなうことは、人間の尊厳を守る上で大切なことです。
「互助」は人間同士が助け合うこと。友人やご近所が「お互いさま」と助け合うのはごく自然なことで、相手が困っているときは、自分からその人を助けるよう働きかけることが必要です。ボランティアの力もこれに該当します。
「共助」は、年金や医療保険など公的な仕組みよって支える制度を指します。
「公助」は共助と類似していますが、より生活に困窮している人を助けるセーフティネット(生活保護の支給、老人ホームでの受け入れなど)を指します。
最後に
2025年を待たずして、全国各地でその地域性を生かした地域包括ケアシステムが確立されつつあります。しかし、地域包括ケアシステムは決して画期的な取り組みではなく、日本に古くから根付いている「助け合い」の精神がベースにあると言えます。
介護や身の回りの世話にしても知識や経験がある人ばかりではありません。一人ひとりにできることは限られるかもしれません。それでもできることから少しずつ地域の取り組みに参加していくことが、今後、地域包括ケアシステムを充実させていくために必要となるでしょう。
コロナ禍でも
面会できる施設特集
老人ホーム・高齢者住宅
運営事業者の方へ
老人ホーム検索サイト「さがしっくす」では、事業者様のご入居募集のニーズに合わせて、2つのご掲載プランからお選びいただけます。