介護のお役立ちコラム
病気やケガの治療のため、安静状態を長期間続けることで身体能力の大幅な低下や精神状態に悪影響が起こる、それが「廃用症候群」です。多くの症状に悩まされるのが特徴。
とくに高齢者の場合は床に伏せがちで運動量も気力も奪われるため、そのまま寝たきり状態になってしまうケースも......。この記事では、廃用症候群の原因と予防法、ケアの仕方やリハビリテーション方法についてご紹介します。
【監修者】
矢島 隆二 医師
脳神経内科・認知症・総合内科などを専門としている。新潟大学医学部卒業後、地域中核病院や大学病院などでの高度急性期医療から地域の総合病院まで幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症の研究も行い、医学博士も取得している。
現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点をおいた神経内科を主体とした医療を担っている。
神経難病やアルツハイマー病などの治験も行っているほか、講演や執筆の依頼も積極的に受けている。日本リハビリテーション医学会 認定臨床医の資格取得。
廃用症候群とは?その原因と症状
廃用症候群は "disuse syndrome" の和訳であり「長期臥床により心身の活動性が低下したことによって生じる、精神を含めた全身の部位に起きる二次的障害の総称」とされています。
病気やケガが原因で安静状態が長引いたり、高齢による関節の痛みなどで運動量が減ったりすることで、廃用症候群を生じます。廃用症候群が別名「生活不活発病」とも呼ばれるゆえんでもありますが、社会生活や生活そのものに必要な活動をしなくなることで、廃用症候群に至る高齢者も少なくありません。
廃用症候群は心身の能力が大幅に低下することで、さまざまな症候が起こります。代表的なものとして、以下が挙げられます。
運動器障害
体を動かさないことによって起こる「筋萎縮・筋力低下」や、関節付近の組織の短縮または炎症により、関節の可動範囲が限られてしまう「関節拘縮」。ほかにも加齢とともに骨が細くなる(骨量が減る)ことによって起こる「骨萎縮」があります。体を動かす機会が減ることによって食事量が減り、タンパク質やカルシウムなど摂取する栄養が減ることも原因の一つです。
循環器・呼吸器障害
寝たきり状態が長引くと心臓の機能も衰えて、心拍出量の低下とともに立ちくらみ(起立性低血圧)などもみられやすくなります。また、特に下肢を動かさない状態が長引くことで、血栓ができてしまうことがあります(深部静脈血栓症)。
さらに、呼吸に関連する筋肉の衰えによって肺活量が低下し、換気量も減少していきます。長期間上半身を起こさないでいることで、高齢者の死亡原因のトップ3に入る「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」にもつながっていきます。
精神障害
体に自由が利かなくなることによって、気持ちがふさぎ込むようになり「抑うつ」状態になりやすくなります。気分が落ち込めば、運動や食事に対する意欲も失われてしまうでしょう。また、日常生活での刺激が少なくなることで生活のメリハリが乏しくなり、時間や場所の見当識が保ちにくくなります。
その結果、認知機能も低下しやすくなります。さらに、睡眠のリズムも保てなくなったり、せん妄につながっていったりする方もいます。周囲はなるべく本人とコミュニケーションを取るように心がけ、その方が孤立しないように支えていくことが大切です。
褥瘡(床ずれ)
特に寝たきりの状態で注意したいのが 褥瘡(じょくそう)で、一般的には「床ずれ」と呼ばれています。
高齢者の場合、筋肉の衰えによって骨が皮膚に与える負荷が大きくなります。体に見合ったマットレスや寝具を選ぶと同時に、定期的な体位変換で防ぐことが可能です。また、シーツにしわを作らない、パジャマと下着のゴムやボタンが肌に食い込まないにようにするなどの配慮も必要です。
運動能力が低下すると動く意欲が落ちてしまいます。そのため、さらに運動量が減って、体の機能が低下してしまう悪循環に陥ってしまいます。この負の連鎖が続くことで、「寝たきり」になってしまうわけです。
廃用症候群は体を動かさなくなることで少しずつ進行する症状です。たとえば、絶対安静の状態で運動ができない状態が続くと、高齢者は2週間で足の筋肉が2割も減少するといわれています。
病気になれば安静にしていることが一般的な治療方法になりますが、廃用症候群が生じてしまった場合は、できるかぎり速やかにリハビリテーションをして運動能力を取り戻す必要があるのです。
廃用症候群を予防するには、とにかく体を動かすことと食事が大切
廃用症候群の予防はシンプルです。運動をするなどできるだけ体を動かすことが大切です。 安静にしているときでも「体位変換」「座位を増やす」「ベッドに寝たまま足首を回す」「足の指を動かす」「手足をもみほぐす」などでも良い運動になります。
また体を動かす機会をつくるよう心がけましょう。介護者がつきっきりで身の回りの世話までやってしまうと廃用症候群のリスクは高まります。自分でできることは、極力自力でおこなうよう促すことで運動機会を増加できます。
ほかにも、固まった筋肉をマッサージなどでほぐし、血流を促してあげることも効果的です。強くおこなう必要はなく、皮膚表面を軽く揉みほぐす程度で問題ありません。軽めの運動やヨガ、ストレッチのような「柔軟運動」も固まった筋肉をほぐしてくれるのでおすすめの方法です。
食事による改善も効果的
廃用症候群の方は低栄養状態になりがちなため、食事による予防法も効果的です。体を動かす意欲を湧かせるためにも主食、主菜、副菜を基本に栄養バランスが整った食事、とくに筋肉の材料になるたんぱく質を豊富に含む食品を摂るとよいでしょう。具体的には、肉類や大豆類、乳製品などにたんぱく質が含まれます。
対象者の状態を観察し、食欲がない場合は、咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)機能が低下しているのか? 食欲不振なのか? 消化機能が衰えているのか? などまずその原因を突き止めましょう。口腔内を清潔に保つ、嚥下訓練をおこなう、十分に水分を補給する、消化しやすい食事に変えるなど対象者に合わせて、対策を練りましょう。
また精神的なケアをして活動的になってもらうことも、廃用症候群の予防につながります。入院を始めた高齢者は、病気によるストレスと慣れない生活から精神的に落ち込み、自室やベッドからほとんど動かないことがあります。 体を動かさない状況が続くと廃用症候群の原因になってしまうので、その方の悩みを聞く、自室からの外出に誘うなどのケアをしてあげましょう。
廃用症候群に対するリハビリテーションの方法
廃用症候群になってしまったときは早期のリハビリテーションが有効です。一番効果的な方法は体を動かすこと。リハビリテーションの際は、「立ち上がる」「座る」「歩く」「階段を上る」などの日常的な運動を取り入れます。
リハビリテーションの内容については、比較的体に不自由がない場合は、上記のような日常運動に加え、無理のない範囲でエクササイズを加えることが可能です。
ただし、病気やケガで長期間入院していた場合などは、必ず医師やセラピストの指導のもとリハビリテーションに取り組むようにしてください。セラピストの代表的な職種として、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)があります。それぞれが連携して、スムーズなリハビリテーションにつなげています。
特に杖など補助器具が手放せない状態では、転倒するリスクが高まります。自宅でリハビリテーションをおこなう場合は、できることなら家族も付き沿い見守るようにしてあげてください。セラピストによる訪問リハビリテーションを受ける方法もあるので、通院が難しい場合は活用をおすすめします。
ほかにも着替え、排泄など、身の回りの動作はできるだけご自身でおこなってもらいましょう。家事や趣味、社会参加などにも参加して、楽しみながら自分の体を動かす機会を増やすことが大切です。
リハビリテーションの際は、本人の精神的活力や意欲が無くなり、続けることが難しくなる場合もあります。その際は、本人の悩みを聞いたり、目標を立てる手助けをしたりするなど、リハビリテーションに対して前向きな気持ちを持ってもらえるよう支援しましょう。
高齢者の運動能力を維持するために、手助けは必要最低限に
病気の療養は安静にしていることが一般的ですが、それによって心身が衰弱しやすくなって、廃用症候群にかかってしまうことがあります。 廃用症候群になってしまった場合は体を動かす機会を増やし、筋肉量を回復させて、生活に支障が出ない運動能力に戻すことを目指しましょう。
高齢者になるほど運動能力の回復に時間がかかるもの。介護する方は、できる限り運動能力を維持するために着替えや家事などはご本人に動いていただき、どうしても必要なときだけ手を差し伸べる程度にとどめましょう。
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