介護のお役立ちコラム
普段の生活の中で、急に無気力になったり体調不良を覚えて寝込んでしまったりと、心身ともに元気がなくなる瞬間があることかと思います。日々目まぐるしいストレスフルな現代社会では起こりがちな現象と言えるかもしれませんが、これは高齢者の介護にあたる家族にとっても例外ではありません。今回は、知らず知らずのうちに私たちの健康に影を落とす「自律神経失調症」について、その傾向を探っていきます。
【監修者】
伊藤メディカルクリニック院長
伊藤 幹彦 先生
東京医科大学卒業後、東京医科大学第2外科(心臓血管外科)入局。東京医科大学八王子医療センター心臓血管外科や東京警察病院外科医長などを経歴し、現在は伊藤メディカルクリニックの院長を務める。
これまでの術者としての経験をもとに、全身管理の大切さをモットーとし、健康維持への貢献を目指している。
体の機能を24時間正常に保つために必要な「自律神経」
「自律神経」とは、私たちの体調を正常に保つため、臓器の働きや体温などを正常にコントロールする神経です。自律神経には、昼間起きているときに活発になる「交感神経」と、睡眠時やリラックスしている状態で活発になる「副交感神経」があります。
具体的には、交感神経が優位になると心拍数が増える、発汗する、胃腸の働きが抑制されるといった現象が体内で起こります。一方で副交感神経が優位になると、心拍数は減り瞳孔が閉じるようになり、胃腸の働きは活性化されます。1日を通してこの2つが互いにバランスよく機能することで、人間の体は健康を保つことができるのです。
ところが、何らかの外部的要因によって自律神経が正常に機能しなくなることがあり、この状態を「自律神経失調症」と呼びます。なお、自律神経失調症は正式な病名ではなく、自律神経の乱れが確認できる状態の総称として使われています。それでは、なぜ現代人の多くに自律神経の乱れが起きているのでしょうか?
身近に潜む自律神経失調症の原因
自律神経失調症の原因には以下のようなものがあります。
ストレス
職場、学校、近所付き合いなど人間関係に起因するものです。人間は周囲からのプレッシャーなどストレスを過剰に感じると、常に交感神経が優位な状態になるため、不眠や消化不良などを引き起こします。また、転職や引っ越しなど環境が変わることでもストレスを感じることがあります。
不規則な生活習慣
人間の体は明るい時間に活動して、暗くなれば休むようにできています。ところがこのサイクルが崩れると自律神経にも悪影響を及ぼすのです。また、食事の時間が不規則になると胃腸の働きも弱まるため、睡眠と食事は常にセットで影響を及ぼす要因と考えた方がよいでしょう。
女性ホルモンの減少(更年期障害)
女性は加齢にともない女性ホルモンの分泌が減少します。特に閉経を経て分泌量は急減するため、このタイミングで自律神経失調症に見舞われる人も多いのです。
体に起こるさまざまな異変は、自律神経の異常を知らせるサイン
自律神経失調症になると以下の症状が現れます。
疲労、倦怠感、肩こり、頭痛、動悸、めまい、不眠、便秘、 下痢、耳鳴り、手足のしびれ
上記のような肉体的な症状以外にも、気分の落ち込みや無気力、不安感、急に怒りっぽくなるなど精神的な不安定さも覚えるようになります。
こういった症状は、決して自律神経失調症だけに限った病状ではないため、ほかの病気が病因である可能性も考えられます。逆に言えば、異なるさまざまな疾患である可能性も高いため、「自律神経失調症」と簡単に診断できない側面もあります。また初期の段階では、いずれの症状が出ても命に関わるような緊急性はなく、仮に自律神経失調症だったとしても、他の病気として診断されてしまう可能性も除外できません。このあたりがこの病気に対する理解がいまひとつ浸透していない原因なのかもしれません。
介護する家族に症状が現れることも......
高齢者の介護に費やす時間や労力も大きな社会問題となっていますが、介護にあたる家族が自律神経失調症にかかってしまうケースも十分に考えられます。
身体介護の場合、朝の着替えに始まり食事、排せつ、デイサービスなど介護施設への送り出し、病院への付き添い、入浴、歯磨きに至り、その間にもベッドや部屋の清掃、衣類とシーツの洗濯など息つく暇もないことでしょう。
認知症がみられる場合には、常時の見守りだけでなく、食事を取ったことを忘れたり同じ言動を繰り返したりといったことに対し、常日ごろリアクションしなくてはなりません。加えて、暴力・暴言がみられる場合、肉体・精神両面でのストレスはすぐに極限に達することでしょう。
介護者が過度なストレスを感じ体調に異常を覚えた場合、それは自律神経の乱れから来ている可能性はあると言えます。まずは誰かに相談をして、なるべく早急に医師の診察を受けるようにしましょう。
ストレス軽減に努めることが症状改善への糸口
それでは自律神経失調症を改善するためにはどうしたらよいのでしょうか?
リラックスできる時間を作る
自律神経の異常は交感神経が活発になりすぎることによって起こります。そのため、日々の生活の中で副交感神経を高める取り組みを実践してみましょう。
趣味に打ち込む時間を増やしたり、音楽や映画の鑑賞、入浴時間を長めに取ったりするのも良い習慣と言えます。アロマテラピーも効果的と言われています。まとまった休みが取れる場合、旅行に出かけてリフレッシュすることも大切です。
規則正しい生活リズムを心がける
夜更かしや暴飲暴食を避けて規則正しい生活リズムを取り戻しましょう。それだけで気分も穏やかになり、趣味などリラックスできる時間を長めに確保することにもつながります。
栄養素を考えて食事をする
栄養価の高い食品を食べるようにしましょう。
ビタミンAとEは自律神経の調節に効果的で、レバー、卵黄、小松菜、アーモンド、大豆などに多く含まれます。ストレス耐性を高めてくれるビタミンCはレモンに多く含まれており、アロマ効果のある温かい紅茶にスライスしたレモンを乗せると一層効果的です。
小魚などに多く含まれるカルシウムは、イライラ気分を落ち着かせてくれる効果があります。副交感神経を高めるセロトニンの分泌を促すトリプトファンは、大豆製品や乳製品、バナナなどに多く含まれています。
物事を違う視点で考えてみる
人間関係は自分ひとりだけの問題ではないため、独力で解決することは不可能です。そこで考え方を変え、発想の転換をしてみてください。人の短所は言い換えれば長所として捉えることもできますし、「あの人はああいう人だから」と割り切ることもできるはずです。どうしても解決できない問題については諦めることも重要です。
人に相談してみる
抱えている悩みを人に話してみることも重要です。仮に答えが出なかったとしても、誰かに聞いてもらえただけで気分が晴れやかになるケースもあります。特に介護での悩みは、同じような境遇にいる人と"共感"できる材料があることで、心構えが大きく変わってきます。
最後に
私たち自身「自律神経が侵されている」という自覚があまりないため、「ただの体調不良」と思い込んで病院へ行かず我慢してしまうケースも多いことだと思います。少しでも体調不良を覚えたら、まずは病院で医師の診断を受けることが自律神経失調症の発見、そして改善のための第一歩になります。
コロナ禍でも
面会できる施設特集
老人ホーム・高齢者住宅
運営事業者の方へ
老人ホーム検索サイト「さがしっくす」では、事業者様のご入居募集のニーズに合わせて、2つのご掲載プランからお選びいただけます。