介護のお役立ちコラム
介護にまつわる暗い話題の一つに"介護殺人"がありますが、この介護殺人と少なくない関連性を持つのが、家族の介護を理由に退職する"介護離職"です。 例えば、2015年冬、47歳の三女が生活苦を理由に、認知症の母親と高齢で働けなくなった父親を乗せた車を利根川に突っ込ませた、"利根川介護心中未遂事件"。一人生き残った三女は、事件の3年前から介護を理由に仕事を辞めていました。 介護離職は、収入が減る上に、介護の必要な家族と一日中一緒にいることでストレスをためやすくなり、結果として無理心中や殺人につながってしまうケースが多々あります。 介護殺人について詳しくはこちらの記事をどうぞ 過去の新聞記事から読み解く「介護殺人」の実態 こういった問題を未然に防ぐためにも、絶対に、安易に介護離職を選ぶべきではありません。とはいえ、一日中介護が必要な家族が家にいて、施設に入れるお金もなかった場合、どうすればいいのでしょうか。今回は、介護離職を防ぐためにどのような取り組みがあるのか紹介していきます。
年間10万人が職を離れている。介護離職の厳しい現状
介護離職の現状について、まずは掘り下げていきましょう。 厚生労働省のおこなった、平成24年就業構造基本調査によれば、2007年10月〜2012年9月に介護・看護のために離職した人は48万7000人。年間約10万人ほどの介護離職者が出ています。特に女性はそのうち38万9000人で、約8割を占めています。 親の介護という問題に直面するのは、おもに職場で重要なポストを任されるような40代や50代が。そのポストを離れるのは、キャリアや収入の面でも大きなダメージです。また、その年齢から再就職をしようとしても、求人は20代〜30代中心のため、希望の職に就くのは至難の業。1度介護を理由に離職をしてしまうと、その後の生活に不安がつきまとうケースも少なくないのです。
「介護離職者ゼロ」へ。特養の増設と介護休業法改正
安倍政権はこのような現状を打破すべく、2015年秋に経済政策の「新3本の矢」の一つとして、「GDPの600兆円」「出生率1.8を達成」とともに「介護離職者ゼロ」を掲げました。そのために、全国で多くの待機高齢者が発生している、特別養護老人ホーム(特養)などの介護施設の増設を打ち出したのです。介護施設の中でも比較的安い料金で利用できる特養を増やすことで、在宅介護の負担を減らす狙いです。 しかし、介護従事者も不足している現状、介護施設を増やすことによってサービスの質の低下や介護職員の職場環境の悪化も懸念されています。 また、もう一つ、「介護離職者ゼロ」の一環としてとりおこなわれた大きな施策が、育児・介護休業法の改正です。2017年1月より、介護をしながら働く人がより介護休業・介護休暇をとりやすくなるために、以下のように改正されました。
①介護休業
介護を必要とする家族(対象家族)1人につき、通算90日まで原則1回取得可能 →対象家族1人につき、通算93日まで、上限3回まで分割して取得可能に
②介護休暇
1日単位での取得で、年5日→半日単位での取得で、年5日分
③短時間勤務やフレックスタイムなど
介護休業と通算して93日の範囲内で利用可能→介護休業とは別に、3年間利用可能
④介護のための残業の免除
なし→対象家族1人につき、介護の必要がなくなるまで残業の免除が受けられる制度を新設
⑤介護休業給付金(休業開始前賃金の給付割合)
賃金の40%→賃金の67%
⑥介護休業を取るための、要介護者の基準 要介護度2〜3程度。 また、介護者の兄弟や祖父母であれば、同居していることが必要 →要介護度2以上。一定の条件を満たせば、要介護度1でも取得可能。 兄弟や祖父母であっても同居している必要なし。
介護休業がこれまでと違い分割できるようになったため、「家族で介護の体制を整えるために1か月、2年ほど在宅介護をしたあと施設の検討に1か月」のような柔軟な取得の仕方が可能になりました。重要なポストに就いていて、いきなり3か月休むのが難しいという方でも、個々の状況に合わせて効率よく休暇を取ることができるように制度が変更されたのです。
24時間訪問介護は、介護離職を食い止めるか
また、このような国の取り組みとは別に、民間でも介護離職を防ぐ手段として、24時間対応の訪問介護サービスが注目されています。24時間、巡回車が地域を回り、早朝でも深夜でも介護者の住まいに訪問するサービスです。 通常の訪問介護と違い、ヘルパーが1日に複数回、定期的に訪問するので、日中お仕事をされている方でも安心して食事の介助などを依頼できます。また、深夜や早朝でも連絡が取れるため、緊急でお世話が必要になったときにも対応します。 もちろん、このようなサービスは有料老人ホームでもおこなっていますが、何よりも高齢者にとって大きいのは、"自宅"で介護を受けられるということ。要介護度が高くなっても「住み慣れた家を離れたくない。家族と離れたくない」と施設への入所を拒む高齢者にとっては、このサービスは魅力的です。 高齢者にとっても介護する家族にとっても嬉しいこのサービスですが、認知度が低いのが現在の課題。4年前に始まったものの、未だに全国の8割近くの市町村で実施されておらず、利用者も1万3000人ほどと言います。 もし今、介護と仕事の両立に悩みを感じているのであれば、一度自分の住む地域で24時間訪問介護サービスが実施されているか、確認してみてはいかがでしょうか。
自分から声を上げなければ、誰も支えになってあげられない
年間10万人と言われる介護離職の現状を変えるために、国も民間も徐々に制度を整えつつあります。それに対して、介護をする立場の人たちができることは、自分が介護で悩んでいることを職場で相談することです。 厚生労働省がおこなった、『仕事と介護の両立に関する企業アンケート調査(平成24年度)によれば、「企業における仕事と介護の両立支援として重要と考えられるものは何か」という質問に対して43.4%の回答者が「従業員の仕事と介護の両立に関する実態・ニーズ把握を行うこと」と答えていました。 いくら制度が整っても、実際に介護をしている本人が声を上げなければ、介護休業制度を利用することもできません。介護離職の影がよぎったら、まずはその悩みを上司や同僚に相談してみてください。
■参考
・クローズアップ現代 2016年7月6日放送 介護離職 こうして切り抜けました ~知っておきたい 24時間 訪問介護~
・『仕事と介護の両立に関する企業アンケート調査(平成24年度)
・平成24年就業構造基本調査
・リーフレット「育児・介護休業法が改正されます!-平成29年1月1日施行-」
コロナ禍でも
面会できる施設特集
老人ホーム・高齢者住宅
運営事業者の方へ
老人ホーム検索サイト「さがしっくす」では、事業者様のご入居募集のニーズに合わせて、2つのご掲載プランからお選びいただけます。