介護のお役立ちコラム
介護施設職員による利用者に対する虐待が取り沙汰されていますが、実は利用者側からの暴力・暴言といったケースも介護の現場では存在します。今回は、こういった介護現場で起こり得る「介護ハラスメント」の実情について紹介するとともに、ハラスメント防止に向けて家族ができることについて考えてみたいと思います。
介護ハラスメントの実情
「介護ハラスメント」とは文字どおり介護の現場で起きる、利用者による介護職員へのハラスメント(嫌がらせ)を指す言葉です。具体的には、介護職員に対して容姿や勤務態度をきつい言葉でなじるといった暴言と、身体介助時に殴ったり噛みついたりといった暴力があります。さらに女性職員が男性利用者を介助するときに、卑猥な言葉を口にする、胸やお尻を触わるといったセクハラも報告されています。
当然、サービスを提供する側としては、利用者に対して力ずくで制止したり懲罰を与えたりするようなことはできません。安易に注意できない事業者側の立場を逆手に取り、利用者の暴力・暴言はますますエスカレートしていきます。
多くの被害者は上司や施設長に相談して解決策を講じるよう働きかけてはみるものの、「少し我慢すればすぐに止める」「いかなる嫌がらせもあしらってこそ介護のプロ」といったその場しのぎの返答しかもらえず、問題が放置されたまま心身ともに疲れきった介護職員たちは、休職または退職に追い込まれているのです。
介護職員たちで結成する労働組合「UAゼンセン日本介護クラフトユニオン」による調査では、回答のあった約2,400人のうち、全体の70%の職員が利用者またはその家族から何らかのパワハラを受けたと回答し、セクハラに関しては30%の職員が「ある」と回答しました。
現場レベルでは解決が難しいこともあり、関係者からは国に対策を求める要望が上がっていたことから、厚生労働省は『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』を策定しました。具体的には、利用者に対してサービス利用開始時に規則の周知を徹底することや、トラブルがあった場合の職員間での速やかな情報開示・共有の徹底。相談窓口(ホットライン)を開設するなどして、問題解決に努めていく内容となっています。
なぜ高齢者がハラスメントに走るのか?
高齢者が介護職員に対してハラスメントをする理由はいくつかありますが、おもな理由の一つに加齢により今まで出来ていたことが出来なくなってしまったことへの苛立ちから、つい暴力・暴言に走ってしまうケースがあります。
食事や入浴の介助一つとっても、独力でできないもどかしさ、周囲へ迷惑をかけてしまっているという自虐の観念から怒りの矛先が介護職員に向けられてしまうのです。特に社会的地位の高かった男性によく見られる行動で、介護されることに対して自身のプライドが許さないのです。
同時にセクハラも男性に多く見られる迷惑行為です。男尊女卑の考え方が色濃く残っている世代もあり、常に女性を見下し優位に立ちたいという考え方から来るものもあれば、単純に性欲が強く、体に密着してくる女性介護士に対して気分の高まりを抑えられない人も多くいます。もし、家族によるセクハラ行為が判明した場合、家族は決して看過せず速やかに事業者へ申し出るようにしましょう。セクハラの場合、担当者を男性に変えてもらうだけで収まることが多いのです。
次に、認知症が原因でハラスメントに走るケースも考えられます。認知症の場合、本人の生い立ちや性格と相まって暴力・暴言に走る高齢者も多く見られます。こういった場合、薬(認知症進行抑制剤)で症状が落ち着くこともありますが、まずは利用者と目線を合わせて、ケアに当たる前にコミュニケーションをしっかりと図ることが重要です。仮に家族が身体介助をした場合でも、声かけを十分におこなわず作業的なケアになっている心当たりはないでしょうか? 高齢者の立場からして、不安な状態が取り除かれないままどこかに連れて行かれたり洋服を脱がされたりしたら、恐怖からつい叫んだり手を上げてしまいたくなることだと思います。
無意識に家族がハラスメントに加担することも......
こういったハラスメントは決して利用者-介護士間の問題とはかぎりません。いつの間にか家族もハラスメントに加わっていることも考えられるのです。
有料老人ホームなどに入所する高齢者の中には、家族が在宅での介護に限界を感じて苦渋の決断で入居を決めたケースもあります。こういった場合、家族には一生懸命に介護してきた自負があるため、施設側にも同等の手厚いケアを要求する傾向が強いのです。そのため入居者の顔色が優れなかったり、居室の清掃が行き届いていなかったりしただけですぐにクレームをつけるようになります。
家族はお金を払っている立場ゆえ、「客なんだからこちらの言うことは聞いてくれて当たり前」という考え方の人もいます。確かに利用者側はサービス内容などについて質問したり意見を述べたりする権利はありますが、介護現場は慢性的に人手不足で、一人の入居者だけにサービスを集中させることはできません。基本的に介護サービスは、各利用者に対して介護保険の適用範囲内でおこなわれるもので、それを超越するような要求は施設側にも拒否する権利はあります。入居の際に取り交わす「重要事項説明書」の記載内容から逸脱するような要求は慎むようにしてください。
もし、施設側に不審点や疑問点がある場合、決して感情的にクレームをつけるのではなく、なにか変わったことは起きていないか、相手(介護士)の方から情報を引き出すアプローチを試みてみましょう。ここで威圧的になれば職員が家族に対して嫌悪感を持ってしまい、クレームを恐れてなにか問題が起きても報告しないといった具合に、今後のケアに悪影響を及ぼす可能性も出てきます。それでも疑問が残る場合には、現場の職員ではなく施設長や担当の介護支援専門員(ケアマネジャー)などの責任者に話を持っていくことも有効です。
密なコミュニケーションが問題解決への近道
厚生労働省が対策に乗り出したことからもわかるように、現場で働く介護士の大半が何らかのハラスメントを受けたという事実があることから、このまま解決策を打たなければ介護ハラスメントはより大きな社会問題となってくるでしょう。サービスを提供する側とされる側。まずは両者がより密にコミュニケーションを図り、お互いを理解していくことが介護ハラスメント撲滅への一番の近道になるのではないでしょうか。
■参考文献
『こころが軽くなる 認知症ケアのストレス対処法』松本一生著 中央法規出版
■参考記事
利用者のセクハラ・パワハラから介護職員を守ろう! NCCUと42社が集団協定 | 介護のニュースサイト Joint
介護現場のセクハラ 厚労省が対策マニュアル作成へ | 朝日新聞デジタル
「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」について | 厚生労働省
介護現場で広がるハラスメント|けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本
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