介護のお役立ちコラム
最終更新日:2019年10月4日
労働者が毎月受け取る給料からは、所得税のほか厚生年金、社会保険、雇用保険などが天引きされることはご存知でしょう。加えて、満40歳を迎えた国民は「介護保険料」も徴収されることになります。これは高齢者が介護サービスを受ける際に発生する費用に充てられ、高齢者の暮らしを支えていくための貴重な財源となるのです。今回は介護保険が導入された経緯や介護保険制度の仕組み、利用できるサービスの内容などについて総括していきます。
「措置」から「サービス」へ。2000年にスタートした介護保険制度
「介護保険制度」は2000年(平成12)にスタートしました。本格的な高齢化社会を迎える日本において、社会全体で高齢者の暮らしや健康、安全を保障していこうとする理念のもと誕生した制度です。
今でこそ「介護サービス」というキーワードが定着していますが、介護保険制度が施行される前は、介護を必要とする高齢者に対する介護の提供は、自治体(市区町村)主体で行われ、ケアの手法や入所する施設の選定などについて、利用者や家族の意向が汲まれることはありませんでした。これを「措置制度」と呼びます。
ところが欧米諸国では、医療と同じように高齢者の介護にも保険制度が導入されており、日本でも利用者主体のケアの必要性が考えられるようになりました。あわせて社会保障費のひっ迫もあり、これまで税金で担っていた各自治体の負担を減らす代わりに、国民の所得から「保険料」という形で財源を集め、利用者はわずかな自己負担で介護サービスを受けられる仕組みがスタートしたのです。現在の介護保険の財源は、半分が納付された保険料で、残る半分が国・都道府県・市区町村による公費となっています。
介護保険制度ができた背景
法整備の背景には「家族介護の限界」「社会保障費の増大」そして民間企業らが介護ビジネスに参入し、今までの公的な措置制度の役割を代行する「介護の社会化」が大きくあります。
かつて日本は、一家の主婦が家事と育児、そして同居する家族の介護を一手に引き受けるのが慣習となっていました。しかし、女性の社会進出が当たり前になってくると、自宅で高齢者を見る人がいなくなり、介護を主婦に押しつけることへの不平等感も表面化してきました。
老人福祉制度が誕生した1960年代と比較して、国民の高齢化率はかなりの勢いで上昇しています。当然、医療費や介護のために捻出する費用も多大になり、健康状態が著しく悪い寝たきり高齢者の長期入院なども問題になりました。介護保険が使える「施設系サービス(詳しくは後述)」の一つである「介護療養型医療施設」の廃止が決定した原因の一つに、健康状態が回復したにもかかわらず帰る家がないなどの理由で入院を続ける高齢者が多かったことが挙げられています。
なお、「保険」と言っても、生命保険のように支払った保険料を自らの治療費や入院費に充てる積立方式ではなく、働く現役世代から集めた保険料を当代の高齢者の介護費用に充てる「賦課(ふか)方式」が採用されています。賦課方式では、税金と同じような形で一時的に多くのお金を集めることが可能ですが、このまま少子高齢化が進めば保険料の歳入よりも支出が大きくなることは明白で、根本的な見直しが求められる可能性もあります。
同時に、これまで社会福祉法人や医療法人などによって運営されてきた介護事業に民間企業も参入できるようになりました。介護保険法には「利用者自身がサービス提供事業者を選べる」という原則があります。民間企業の参入によって競争原理が働くため、よりよいサービスの追求が期待でき、利用者の暮らしもより充実したものとなるはずです。
これまでに介護保険法は3年に一度のタイミングで見直しがされており、より社会の実情に則した内容かつ被保険者にとって有益なサービスが受けられるよう改正されてきています。
現在の介護保険制度の仕組み
それでは現在の介護保険制度の概要について見てみましょう。
保険料の支払い開始年齢
日本国民であれば40歳以上は全員保険者になり、たとえ介護サービスを受けられる高齢になったとしても、死亡するまで保険料を払い続けなくてはなりません。
介護保険の被保険者は、65歳以上の第1号被保険者と40~64歳までの第2号被保険者に分類されています。第1号被保険者については、年金による収入が年間18万円以上ある人は、年金から天引きされる形で住まいのある自治体が徴収します。現役世代が多くを占める第2号被保険者は、毎月の給与から年金やほかの保険と同時に天引きされる仕組みです。納付については、所属する健康保険組合が代わりに支払う形になります。
保険料が決まる仕組み
第2号被保険者で社会保険(協会けんぽ、共済組合などを含む)加入者の場合、給与(ボーナスを含む)に介護保険料率を掛けた金額が算出され、その額を事業主と折半する形で決定します。この介護保険料率は各健康保険組合によって異なり、会社の規模や従業員数などによって差があります。
国民健康保険加入者の場合は、所得割(世帯収入に応じて算定した金額)、資産割(その世帯が所有する資産に応じて算定した金額)、均等割(保険加入者1人あたりの算定金額)、平等割(保険加入1世帯あたりの算定金額)の4項目を組み合わせて算出しますが、算定金額の項目および掛け率は自治体ごとによって異なります。なお所得割に関しては、前年度の所得が反映されます。
第1号被保険者の場合、各自治体が設定した「基準額」によって9段階に分類され、所得の多さや課税の有無、生活保護の受給状態などによって金額が決まります。当然、各自治体によって財源や被保険者数も変わってくるため、住まいのある地域によって保険料は変動します。
自己負担の割合
介護保険で介護サービスを利用する場合、自己負担額は年金収入等280万円未満(合計所得金額160万円未満)で1割、年金収入等280万円以上(合計所得金額160万円以上)で2割、年金収入等340万円以上(合計所得金額220万円以上)で3割となっています(単身者の場合)。夫婦世帯の場合は年金収入等が346万円以上で2割、463万円以上で3割です。
2000年の介護保険法施行以降、しばらくの間個人負担額は一律で1割負担でしたが、2015年の法改正で高額所得者(年収280万円以上)が2割負担に引き上げられ、続く2018年の法改正でさらなる高額所得者の3割負担が追加されました。
サービスを受けられる対象者
住まいのある市区町村から要介護認定または要支援認定を受けた65歳以上の前期高齢者になります。ただし、国が認める特定疾病(パーキンソン病、関節リウマチ、末期がんなど)に罹患した場合、40歳以上でも介護サービスを受けることが可能です。
「介護保険被保険者証」について
介護保険被保険者証は、その人が介護保険を利用して介護サービスを受ける資格があることを証明するものです。
役所の窓口などで介護保険の申請をしたのち、後日郵送で自宅に届きます。デイサービスを利用する、福祉器具をレンタルするといった場合に随時必要になるものなので、大切に保管するようにしてください。
申請からサービス利用開始までの流れ
相談や申請の受付窓口は、住まいのある市区町村の「福祉課」になります。役所以外では「地域包括支援センター」が窓口になります。地域包括支援センターは、自治体から受託された医療法人や社会福祉法人などによって運営されており、社会福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)が常駐しているため、初めて利用する場合でも経験豊富な介護のプロが相談に乗ってくれることでしょう。
申請が無事に受理された後、介護サービスを受ける本人への聞き取り調査がおこなわれます。市区町村の職員が直接自宅まで出向き、心身の健康状態などについてヒアリングを実施。この調査結果をもとにしたコンピューターによる一次判定と、医師によって作成される「主治医意見書」をもとにした二次判定を経て要介護度(「要支援1~2」「要介護1~5」または「自立(非該当)」)が振り当てられます。
後日郵送されてくる介護保険被保険者証を受け取り、これでいよいよ介護サービスを受ける準備が整いました。しかし、どのような内容の介護サービスが必要なのか、またその頻度はどれくらいなのかなどについては、初めての方には見当もつかないことでしょう。
どのような介護サービスを利用できるのかは、担当するケアマネジャーが取り決めます。ケアマネジャーが所属する「居宅介護支援事業所」に依頼をして「介護サービス計画書(通称:ケアプラン)」を作成してもらいます。被介護者の要介護度によって利用できないサービスもあれば、介護保険が適用となる上限額も異なってきます。もちろん、サービスの決定については高齢者本人と家族を交えて相談することになるので、不明な点は遠慮なく質問して、お互いに納得のいくサービスを提供してもらうようにしましょう。
介護保険で受けられるおもなサービス
介護保険で受けられるサービスは、大きく分けて自宅で暮らしながら受けることができるサービスと、施設などに入所するサービスがあります。基本的に要介護度が高くなるほど利用できる日数や時間は増えていきます。
在宅系サービス
自宅で暮らす高齢者が受けているもっともポピュラーな介護サービスは「訪問介護」「通所介護」です。
訪問介護はホームヘルパーが自宅を来訪し、掃除、洗濯、調理、買い物代行、病院への付き添いなどをおこなうサービスです。おもに独居高齢者または高齢者のみが暮らす世帯が利用しているサービスになります。
通所介護は、通称「デイサービス」と呼ばれています。平日・土曜の日中の間、高齢者を預かってくれるサービスで、特に家を留守にしがちな家族にとっては安心できるサービスです。食事や入浴、レクリエーションなどが提供されますが、同世代の仲のよい友人ができれば、それを生きがいに通いたいという人もいます。デイサービスも、リハビリメニュー中心の機能回復に重点を置いたもの、認知症患者の対応を専門としているものなど、その特徴はさまざまです。
ほかには、一定の期間だけ高齢者が入居できる短期入所生活介護(ショートステイ)などがあります。何らかの事情で家族が数日間家を空けなくてはいけない場合や、介護疲れにより家族がリフレッシュしたい場合などに役立つサービスです。
施設系サービス
自宅で暮らすことが困難な高齢者が入所する施設です。介護保険法では「特別養護老人ホーム(特養)」「介護老人保健施設(老健)」「介護療養型医療施設」の3つが認められています。
特養は、身体の機能の衰えが顕著で認知症が進んでいる高齢者が入所する施設で、多くの高齢者がこの施設で最期を迎えます。現在の介護保険法では原則「要介護3」以上が入所条件です。
老健は身体機能の回復、つまり理学療法士や作業療法士らの指導のもとリハビリをしながら生活する施設です。交通事故や長期入院の影響で即座に社会復帰が難しい高齢者が一時的に生活する場であるため、完全に生活の拠点を移す特養とは異なり、原則、3カ月で退去しなくてはなりません。
介護療養型医療施設は、高度な医療を必要とする高齢者向けの施設で、実際に病院と併設されていることが多いです。長期入院が慢性化して介護保険の財源を圧迫している問題もあり、2018年の法改正でついに廃止が決まり、「介護医療院」へと方向転換を図ることになりました。
地域密着型サービス
高齢者が住み慣れた地域で末永く暮らしていけるように、その地域の特性を生かし、介護事業者のほかボランティアなども含めた協力を得ながら介護サービスを提供していくものです。
主に「要支援」の高齢者を対象にした介護予防サービスでは、体を動かすエクササイズや脳機能維持のトレーニングなど、あらゆる専門家を招いて各自治体による独自の取り組みが見られるようになりました。
また在宅系の介護サービスについても、通常のデイサービス機能に加え、訪問介護や夜間の宿泊もおこなう「小規模多機能型居宅介護」や、認知症高齢者が集団で生活し、コミュニケーション構築や機能訓練などに努める「認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)」などのサービスもあります。
その他のサービス
車いすや杖、昇降機能がついたベッドなどの器具をレンタルしてくれる福祉器具貸与サービスや、移動式浴槽を積んだ車で体の不自由な高齢者の自宅にお風呂を提供する訪問入浴サービスなどがあります。
自宅の階段や廊下に手すりを取りつけたり、トイレを和式から洋式に交換したりといった住宅改修費も最大20万円まで介護保険が適用されます。この場合、個人負担が1割でもわずか2万円の出費なので、高齢者とその家族にとっては大きな手助けになります。
介護保険の支給限度額について
介護保険は要介護度によって毎月の支給限度額が定められています。上記でご説明したとおり、要支援1~2、要介護1~5の7段階に分けられ、数字が大きくなるほど重度で手厚い介護が必要となります。そのため要介護度が高くなるほど支給限度額も高額になり、より多様なサービスを選択することができるのです。
支給限度額 | 自己負担額(1割) | 自己負担額(2割) | |
要支援1 | 50,030円 | 5,003円 | 10,006円 |
要支援2 | 104,730円 | 10,473円 | 20,946円 |
要介護1 | 166,920円 | 16,692円 | 33,384円 |
要介護2 | 196,160円 | 19,616円 | 39,232円 |
要介護3 | 269,310円 | 26,931円 | 53,862円 |
要介護4 | 308,060円 | 30,806円 | 61,612円 |
要介護5 | 360,650円 | 36,065円 | 72,130円 |
支給限度額を超えた場合も介護サービスを利用することは可能ですが、超過分はすべて自己負担(利用者10割負担)になるので注意しましょう。通常は担当するケアマネジャーが限度額内で収まるよう、適切なケアプランを提示してくれるはずです。
また、施設系サービスを利用するにあたり、光熱費や食費は自己負担となります。ショートステイ利用時に発生する滞在費と食費も同様です。特養に入所している場合、毎月費用がかかるため、特に低所得者にとっては大きな負担となっていましたが、この場合「負担限度額認定」によって諸費用が減免されます。
負担限度額認定は、住まいのある市区町村の窓口に申請をして「負担限度額認定証」を発行してもらいます。認定の目安ですが、世帯全員が住民税非課税であることや生活保護受給者であること。そして、預貯金の総額が1000万円以下(夫婦の場合は2000万円以下)であることです。年金収入を含む年収が80万円以下の高齢者が特養を利用した場合、居住費は多床室で370円程度/日、個室タイプで490円程度/日、食費は300~390円程度/日で済みます。
軽度の「要支援者」が受けられる介護予防サービスについて
要介護者(要介護1~5)が受けられる介護サービスに対し、要支援者(要支援1~2)に提供されるサービスは「介護予防サービス」と呼ばれています。名称は異なるものの、基本的には上記で取り上げた「在宅系サービス」や「地域密着型サービス」を要介護者と同様に利用することが可能です。それに加え、最近は自治体とリハビリテーション事業者が連携をして、体の機能維持のためのエクササイズや認知症予防のための脳トレーニングをはじめ、栄養指導、口腔ケアの講習会を開くなど、軽度の要支援者をターゲットにした介護予防策に国に挙げて取り組むようになりました。
しかし、要支援者は要介護者に比べ支給限度額が低めに設定されており、比較的重度の要介護高齢者を対象としている「施設系サービス」の利用は現実的でありません。在宅系サービスのうち「訪問介護」と「通所介護」については、2015年の法改正で介護保険の適用外となり、各自治体主導による総合事業に変わりました。軽度の人に対して幾分不利な条件となっていますが、法改正の背後には、要支援者に対し必要以上の過度な介護サービスが提供されていたという事情もあるようです。
高齢者の生活に自由と彩りを。規制緩和が進む「混合介護」
前述のとおり、このまま少子高齢化が進むと介護保険の財源自体がひっ迫し、介護保険制度自体が破たんしてしまう可能性もあります。このような中、介護保険では補えない部分を自費で負担する「介護保険外サービス」を活用しようという機運が高まっています。
例えば、訪問介護では庭の草むしり、犬の散歩、家具の移動などは緊急性もなく被介護者への直接的な介助には当たらないため、介護保険では適用できないサービス内容となっています。しかし、こういった準日常的な生活支援を求める声も多いため、介護事業者のほか地域のシルバー人材センターや有志ボランティアが保険外サービスの部分を補う取り組みが見られるようになりました。
ほかにも外食チェーンなどが自宅に食事を届けてくれる配食サービス、車いすの乗降リフトを搭載した車で通院などをサポートしてくれる移送サービス(介護タクシー)など介護保険外サービスに該当します。
介護サービスをおこなう事業者が介護保険外でのサービスも並行するケースを「混合介護」と呼びます。例えば、日中帯に高齢者が集まるデイサービスは、現在の法令では宿泊は認められていませんが、介護保険適用外で宿泊ができる、いわゆる"お泊りデイサービス"を提供している事業者もあります。この場合、費用は全額自己負担になりますが、介護保険が適用できるショートステイは人気が高く、地域や時期によっては予約がなかなか取れないケースもあるため、たとえ自費でも利用したいというニーズは根強いのです。
現在、国を挙げて混合介護を推進していく動きがあり、徐々に規制緩和も進んでいることから、介護保険と介護保険外を組み合わせたフレキシブルなサービスがより一般的なものとなってくることが期待できます。
いずれ必要となる制度。今のうちから興味を
介護保険法は1997年に成立しましたが、その後2000年の施行までの期間が短かったこともあり、当初から法案としての未熟さを指摘する声もありました。そして現在まで3年に一度の機会で見直しされていることからもわかるように、目まぐるしい社会情勢に追従しながら法改正を重ねてきました。介護保険制度は、最終的に国民全員の暮らしに密接にかかわってくるはずです。「自分も親もまだ元気だから関係ない」という考えは捨てて、少しずつでもその内容について興味を持っていただきたいところです。
■参考文献
『だまされないための 年金・医療・介護入門』鈴木亘著 東洋経済新報社
『もっと変わる! 介護保険』小竹雅子著 岩波書店
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