介護のお役立ちコラム
少子高齢化が進むわが国では、医療や介護に充てる財源、そしてケアに携わる家族の時間やホームヘルパーの労働力の確保といった問題が山積みとなっています。政府は将来的に要介護状態にならないための予防策を打ち出していますが、このたび厚生労働省は介護予防のあり方に関する有識者検討会を開き、高齢者が集う「通いの場」の実現に向けて議論しました。同省が提唱する「通いの場」とは、いったいどのようなものなのでしょうか?
地域の高齢者が集い、介護予防に向けたプログラムを実践する
「通いの場」は、地域に住む高齢者が定期的に集まり、さまざまなアクティビティを通じて仲間と楽しんだりリフレッシュしたりと、日々の生活に活気を取り入れてもらうための取り組みです。
その中で大きな柱となるのは、「介護予防」に直結するための取り組みになります。具体的にはイスに座った状態でもできるストレッチや運動、テキストやドリルを用いた頭の体操(認知機能訓練)、口の中を清潔に保つための口腔ケアなどです。
またそれ以外でも、参加者同士でお茶やお菓子を飲食しながら語らう会合や、パソコンやタブレットといったIT機器の操作を教える教室。男性の場合は囲碁・将棋サロン、女性にはお花や料理教室などがあります。また、料理をレクチャーする場合、管理栄養士などが講師として招かれ、高齢者に必要な栄養素を多く取り入れたメニューの提案など健康面に配慮した内容になるため、台所を預かる主婦としては大変心強いことでしょう。このように「通いの場」の内容は多岐に渡り、様々な人の趣味や嗜好、ライフスタイルに合致した広がりを見せてくれます。
これらの活動は、全国の自治体による「新しい総合事業」によって行われるもので、住まいのある自治体に住む65歳以上の高齢者であれば誰でも参加可能です。現実的には、「要支援1・2」または「自立」(要介護または要支援にも該当しない)の人が利用することになります。
費用面について、「通いの場」は介護保険外のサービスになりますが、自治体が主催する取り組みのため原則費用は公費で賄われます。そのため参加者は1回につき数百円程度の参加費で済むため、家計を圧迫する心配もありません。近年は社会貢献に対する国民の意識も高まり、ボランティアを募り、講師や運営スタッフとして協力してくれる人も増えているため、今後ますます充実した活動が期待できそうです。
介護予防の必要性と「通いの場」ができた背景
なぜ今、介護予防の必要性が問われているのでしょうか? 第一の理由に、人生の最期まで他人の力に頼らずに自分らしく生きることが人間の尊厳につながると考えられるからです。寝たきりや認知症になれば手厚い介護は必要不可欠になりますが、食事やトイレなどはできるかぎり独力で済ませたいと思うのは当然のことです。そのためには、適度な運動や生活習慣の見直しを比較的若いうちから実践していくことで、重度の要介護になるリスクを少しでも減らせるのです。
続いて、介護にかかる費用を抑制することが挙げられます。ご存知のとおり介護保険の財源の約半分は、40歳以上の国民が納める介護保険料で成り立っています。しかし、このまま少子高齢化が進めば、納める側の保険者は減る一方で被保険者の数は増え続け、介護保険の仕組み自体が破たんしてしまうことが予想されます。
介護保険の財源に少しでもゆとりを持たせる目的で、2015年の介護保険法改正時に、要支援者が利用する通所介護と訪問介護を介護保険の適用から外し、全国の自治体の「新しい総合事業」に移管されることになりました。要支援者の多くは手厚い介護サービスを必要としていないものの、わずかながらも介護サービスを受けていた人たちに対する何らかの施策が必要となったため、全国の自治体で介護予防への動きが活発になってきたのです。
「通いの場」を継続していくために必要なことは?
自治体によっては「新しい総合事業」がスタートして間もないところもあるため、今後継続的に、より多くの高齢者に参加してもらうことが当面の課題となるでしょう。
まずは告知にしても、近所づきあいも少なく、普段からパソコンも利用しない高齢者に対して「通いの場」の情報を伝えることは簡単にはいきません。そこで定期的に高齢者宅を訪問するソーシャルワーカーなどに代わって告知をしてもらう、案内を記したチラシを作成し手渡してもらうといった方法が有効です。特に男性の場合、女性が多く集まる会合にはなかなか顔を出しにくいものですが、町内会などの自治会長に「通いの場」のイニシアティブを取ってもらい、率先して活動してもらうことで男性や夫婦同士での参加のハードルも低くなることでしょう。
介護予防エクササイズといったプログラムの場合、内容がついマンネリ化してしまい、飽きて次第に参加しなくなるケースもあるようです。こういった場合も、月別でエクササイズの内容を変えることや、皆勤賞の人を表彰するといったことで、少しはモチベーションの向上につながるはずです。
こういった取り組みは自治体主導ではあるものの、やはり主役は地域の高齢者たちです。与えられたプログラムをこなすだけではなく、「あれをやりたい」「〇〇に挑戦したい」といった具合に、楽しく取り組むためのアイデアも重要です。様々な要望を実現するためにも、参加者の中からリーダー格になる人を決めて、場を提供する自治体や協力するボランティアの人たちとコミュニケーションを図りながら、「通いの場」を充実させていくビジョンの共有も必要になってくるでしょう。
改めて考える、地域コミュニティの大切さ
「通いの場」の存在意義の一つに、プログラムの内容に関係なく「参加してもらう」ことがあります。現在、日本では65歳以上の高齢者が単身で暮らす、いわゆる独居老人が増えていて、安否確認の重要性が叫ばれています。
ここで「通いの場」が普及していくことで、地域で暮らす独居高齢者の安全や健康状態も周囲が確認できるため、孤独死を減少させることにもつながります。参加した先で「元気そうでよかった」「また、来てくださいね」などと声をかけてもらうことで、社会の中で必要とされているという自覚が芽生えます。こういった些細なことからでも、人は生きる活力を与えられるものなのです。
高齢者が楽しくいきいきと参加できるために
「通いの場」をはじめとする介護予防に向けた取り組みは、まだ歴史も浅く、効果に対する科学的根拠が乏しい面もあるため、今後専門家を交えながら実証実験を進めていくことが必要です。それでも、高齢者が楽しくいきいきと参加できることで、将来の介護に掛かる負担を減らすことはできるはずです。今からでも情報を少しずつ集めて、家族が参加したいと思えるようなプログラムを見つけてみるのもよいでしょう。
■参考記事
「通いの場」普及策を議論 介護予防効果の実証方法も_日本経済新聞
地域づくりによる介護予防を推進するための手引き(日本能率協会総合研究所)
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