介護のお役立ちコラム
病気や事故、ケガなどによって歩行困難となってしまった高齢者にとって、車椅子は外出時だけでなく、食事やトイレ、入浴の際のちょっとした移動にも欠かせない大切な移動手段となります。
しかし、ベッドから車椅子へ、また車椅子からベッドへ移乗するときは、失敗して床に転落でもすれば捻挫や骨折を引き起こす可能性があります。また高齢者の異常介助は1日に複数回行う必要もあるため、細心の注意を払わなくてはいけません。
そこで今回は転倒・転落事故ゼロを目指して、車椅子の正しい移乗方法をおさらいします。
移乗の前、車椅子の点検をするときの3つのポイント
車椅子の移乗について説明する前に、まずは肝心の車椅子のメンテナンスについて説明しましょう。正しい手順で移乗をしたとしても車椅子に異常があっては元も子もありません。定期的に車椅子はチェックしておく必要があります。
【ブレーキの効き具合】
停車時にしっかりとブレーキが効いた状態でないと思わぬ事故に発展する恐れがあります。ブレーキが効かない原因として、「ワイヤーが伸びている」「ワイヤーカバーが折れ曲がっている」「タイヤが摩耗している」などが考えられます。
【タイヤの空気圧や消耗度】
段差にぶつかった際のショックの吸収や乗り心地に影響してくるため、空気圧の確認は定期的におこないましょう。溝が減ってきたり、傷やひび割れがないかチェックしましょう。
【座席の座り心地】
一般的な車椅子のシートや背もたれは、硬めの布などの素材で作られていますが、長時間座る場合、腰を痛めたり、褥瘡(床ずれ)の原因となったりする可能性があります。体への負担を軽減できるように、クッションを腰に当てる、座面に低反発マットを敷くなどの工夫をしましょう。
車椅子移乗における6つの注意点
ベッドから車椅子へ。車椅子からベッドへ。簡単なようで、慣れないうちはなかなかうまくいかないものです。基本的な手順やテクニックを覚えておかなければ、事故につながる恐れもあります。以下の注意点を確認して、介助者と高齢者が互いに安心して移乗ができるよう努めましょう。
ベッドと車椅子の間隔は15~30度
スムーズな移乗を可能にするためには、できる限りベッドと車椅子の位置を近づけることが重要です。ベッドのフレームと車椅子のホイールがある面との角度を15~30度に保ち、できる限り平行に停車するようにしましょう。
ブレーキをかけ、フットレストを上げる
車椅子のハンドブレーキをしっかりと固定し、少しの弾みでも車椅子が動かないようにしましょう。また、つい忘れがちなのは、足を乗せるフットレストを下げたままにしてしまうケース。移乗の際に、間違えてフットレストを踏みつけてしまった場合、車椅子が跳ね上がって思わぬケガにつながることも。
介助者の腕は相手の腰(背中)に、被介助者の腕は介助者の肩に手を回す
ここまで準備ができたら、次はいよいよ移乗です。ベッドから車椅子に移乗する際、少しでもスムーズにいくように、まずはできるかぎり浅めにベッドに座ってもらいます。次に、介助者は相手の腰に両腕を回し、高齢者には自分の両肩に腕を回し抱きしめてもらうようにします。相手が腰に痛みや違和感を訴える場合は、背中を抱えるようにしましょう。
前傾姿勢を意識し、自力で立ち上がりやすい状態にする
移乗を前に、お互いの体が密着した状態になりますが、介助者は、相手の上半身を自分がいる方向(前方)へ引き寄せるようにするのがポイントです。上半身をうまく預けてもらえれば、重心の集まるおしりを自力で浮かせやすくなるため、立ち上がりやすい体勢がとれるというわけです。 逆に自分の体を相手の体の方へ近づけていった場合、腕力だけでは体を持ち上げられず、そのままベッドへ介助者ごと倒れ込んでしまうこともあります。これは特に女性が男性を介助する場合によくある例です。
介助者は両脚を広げ、安定した体勢を整える
上半身はお互い密着した状態ですが、介助者の下半身については、両脚を開いた状態で安定を保つことが重要です。相手の両脚の外側に片足を置き、支えるようにします。もう片方の脚は車椅子の外側に置き、座面に腰を落とした勢いで車椅子が動かないようにしましょう。
声かけでお互いの意思疎通を図る
体を持ち上げる直前に「"1、2の3!"で動かします」と声をかけ、意思確認をおこないます。お互いのタイミングがピタリと合えば、より少ない力でスムーズな移乗が可能です。移乗の注意点を車椅子からベッドへ戻る際も守り、事故防止に努めましょう。
片麻痺(半身まひ)の場合の移乗方法は?
脳梗塞や脳出血などの後遺症で左右どちらかに半身まひが見られる場合、両腕で介助者の体を抱きしめることは難しいことでしょう。こういった場合どのようにすればよいのでしょうか? 身体の右側にまひがある場合を例に挙げて説明します。左側にまひがある方の場合はこの逆と考えてください。
まずベッドから車椅子へ移乗する場合、ベッドの左側へ車椅子を置きます。このとき15~30度の角度を保ちましょう。次に、左手で車椅子の外側の肘かけをつかんで立ち上がってもらい、左足を軸にして体を回転して座ってもらいましょう。必ず車椅子のブレーキを確認し、しっかりと固定されているかを確認した上で移乗してください。
車椅子からベッドへ移乗する場合は、ベッドに身体の左側を向けて車椅子を停車させます。左手でベッドに手を着いて立ち上がってもらい、左足を軸足に体を回転させて、ベッドに座るようにします。 どちらの移乗の場合も、機能している片足を生かすプロセスになります。介助者は必ずまひがある側に付き添い、体を支えるようにしてください。
車椅子とともに見つける、始まる、新たな生きがい
足に不自由が見られる高齢者でも、車椅子をうまく活用すれば行動範囲が大きく広がります。移動手段が増えることによって、寝たきりになるリスクも減少でき、少しでも体を動かすことを日課とすれば、ロコモティブシンドローム(運動機能低下などによる老化の加速)の予防にもつながります。
また、外出して景色を見たり季節の変化を肌で感じたりすることは、インドアになりがちな生活にメリハリを与えてくれるものです。車椅子生活になったことを決して悲観的にとらえず、明るく献身的に家族がサポートをしていけば、新たな生きがいや楽しみを見つけ出してくれるでしょう。
■参考文献 テキスト『介護技術の基礎と実践』日本医療企画 『老人介護 常識の誤り』三好春樹著 新潮社
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https://www.sagasix.jp/theme/corona/
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