介護のお役立ちコラム
年齢を重ねると、徐々に全身の筋力低下や拘縮(関節が固くなり動きが制限された状態)が生じます。その結果、正しい姿勢を維持できなくなることで日常生活に悪影響が出るようになります。今回の記事では、高齢者に多く見られる「円背(えんぱい)」について、その症状や危険性、改善方法などを解説していきます。
【監修者】木村 眞樹子医師
医学部を卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。
円背が及ぼす身体や臓器への負担
「円背」は、骨の歪みによって脊柱が前に倒れた状態を指します。聞き慣れない言葉ですが、一般的に使われる「猫背」と同じ状態です。骨盤が後ろ向きに倒れ、頭は前のめりになります。視界を維持しようと顔を上に向けるので、多くの場合、自然と顎を前方に突き出す姿勢をとります。
このような上半身が曲がった状態だと、歩行中などに転倒するリスクが高くなり、胃や心臓、そのほかの臓器が圧迫されるため、呼吸が荒くなるなどの問題も出てきます。
円背の原因は筋力の低下と椎間板の損傷
円背になる最大の原因は、加齢による「筋力の低下」です。脊柱を取り巻くように、腹上半身を支える役目を果たしている脊柱の周りの腹筋や背筋が衰えてくると、胸椎の部分が前に倒れて円背を引き起こします。
また、「椎間板の損傷」も原因の一つです。人間の脊柱は首から下にかけて頸椎、胸椎、腰椎、仙骨という順で構成されており、ゆるやかなS字カーブを描いた状態が正しい姿勢です。
ところが、日常生活の中で歪んだ姿勢のまま長時間過ごすようになると、椎骨の隙間にある椎間板が押しつぶされて損傷し、そのまま脊柱の変形につながります。近年、パソコンの前に座りっぱなしのデスクワークが増えていることもあり、円背に悩まされる人はますます増加するでしょう。
円背になることで生じるリスクとは
それでは、円背にはどのようなリスクがあるのでしょうか。まずは前述の通り、姿勢が前のめりになることで転倒しやすくなり、骨折する可能性が高まります。
次に、肺などの器官が圧迫された状態となるため、呼吸困難が生じやすくなります。息が苦しいというのは、つまり体中に十分な酸素が行き渡っていない状態です。酸欠状態になると、筋肉の働きを十分に発揮できなくなります。また、前傾姿勢では食べ物やだ液が器官に入りやすくなるため、高齢者に多くみられる誤嚥性肺炎を引き起こす恐れもあります。
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さらに、前傾姿勢は椎間板の損傷だけでなく、椎骨そのものの圧迫骨折につながります。とくに骨粗しょう症の高齢者は、転倒防止と同じように圧迫骨折の予防にも気を配る必要があるでしょう。
円背の予防と改善方法
円背の予防では、日常の座る姿勢を見直すことが重要です。イスに座る場合、深めに腰かけて背中をイスの背面にピタリとくっつけて正しいポジショニングを意識しましょう。
ソファのように座面、背面が柔らかく、座面に奥行きがあるタイプのイスは腰への負担が大きくなります。その場合は、固めのクッションなどを背中とソファの背面に挟んで、姿勢を保つよう心がけてみてください。
筋力を維持するためには、背筋を鍛えるのが有効です。うつ伏せに寝た状態から両肘を着いたまま上体を反らせ、数十秒間その体勢を維持します。
ほかにも、両膝を曲げた状態で仰向けに寝て、そのまま腰を浮かせて同じように数十秒間姿勢を維持します。いずれも、自宅にいながらできる簡単なトレーニングですが、体に負担を感じた場合や腰や背中に痛みを感じた場合は、決して無理をせず、すぐに中断してください。
椎間板の損傷や圧迫骨折を防ぐためには、日頃の食事でカルシウムを摂取するのも重要です。最近は骨の働きを維持するサプリメントも気軽にドラッグストアなどで購入できます。座り方から運動、食事まで、日々の些細な心がけで円背は予防できるのです。
美しい姿勢の維持は健康寿命の延伸にも効果的
背筋がすらりと伸びたきれいな姿勢は、見る人、会う人に良い印象を与えます。それだけでなく、高齢者の場合は転倒や誤嚥性肺炎、椎骨の圧迫骨折の予防にもつながるのです。健康寿命を延伸し、健康で元気な老後を実現するためにも、まずは日常生活のなかで正しい姿勢を意識してみると良いでしょう。
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