介護のお役立ちコラム
家族の誰かに介護が必要となった場合、一般的には配偶者または子どもが世話をすることになります。しかし、親が不慮の病気や事故で要介護になった場合、未成年の若者がその役割を担うこともおおいに考えられます。非常に多感な時期で、心身ともに未発達の子どもが介護をすることは負担も大きく、さまざまなハードルが待ち構えていることは実はあまり知られていません。
今回は、日本が抱えている「ヤングケアラー」の実態について触れていきます。
家族の介護を担う、18歳未満の若者が増えている
近年、日本でも未成年者が家族の介護にあたるケースはめずらしいものではなくなってきました。こういった若い世代の介護者は「ヤングケアラー」と呼ばれています。ヤングケアラーは「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどをおこなっている、18 歳未満の子ども」と定義されています。
人権意識の高い欧米諸国では「子ども一人ひとりも、独立した一人の人間である」という考えが強く、介護に時間を割かれ、勉学や遊びなど自由に時間を使えなくなる子どもをなくすために、早くからヤングケアラーに対する支援体制を整えてきました。政府と学校が連携して、ヤングケアラーたちに対するヒアリングや調査を重ね、そこで得られた知見を国の政策として蓄えてきました。
子どもの人権問題に対し、欧米と比べて後手を踏んでいる印象の強い日本ですが、2020年3月、埼玉県で日本初となる「ケアラー支援条例」が成立されました。この条例の中で、18歳未満を対象としたヤングケアラーへ対する配慮も記載されています。
もともとこの条例には、介護者に対する不当な差別をなくし、安心かつ健康に生活していくための権利保障を明文化した内容が記されていますが、日本のヤングケアラーが抱える問題点は、いったいどういったところにあるのでしょうか?
日本のヤングケアラーの現状
女性の社会進出が進むと同時に、晩婚化によって高齢出産も多くなってきました。これにより、子どもが成人する前に、親が何らかの病気にかかり要介護状態になるケースが目立つようになってきました。核家族ではシングルマザー(またはシングルファザー)の増加によって、必然的に親の世話をしなければいけない環境に置かれている子どもも多くいます。また大家族においても、働き盛りで多忙な親世代の代わりに子どもが祖父母の介護を担う家庭もあります。
総務省が2012年におこなった調査によると、家族の介護をしている若者(15~29歳)の数は約17万7,600人に上ります。少々古い統計になるので、いま現在、その数はさらに増えている可能性は高いと言えます。
18歳前後と言えば勉強や部活に忙しい時期です。この時期に家事や家族の介護に負われるようでは、学業に悪影響を及ぼすことは想像に難くありません。遅刻や宿題忘れ、欠席ばかりでなく、部活動に参加できなくなることによる体力・健康面の影響や、友だちと遊ぶ時間が奪われコミュニケーション能力の欠如につながる可能性だってあります。同時に、大学入試と重なるタイミングでもあることから、介護負担が子どもの進路を大きく左右することも考えられます。
さらに深刻な"ダブルケア"のリスク
1人の人間が1人の要介護者の世話をすることだけでも大変ですが、核家族化でヤングケアラーの負担がさらに増大するリスクもあります。
親世代の高齢化によって、父母同時に要介護状態になるケースも考えられます。また、子ども自身が早期に結婚して子どもを生んだ後に親の介護が必要となる、育児・介護の同時進行もありうる話です。このような"ダブルケア"が起きた場合、より多くの時間を割かれてしまうため、最悪の場合、学校や仕事を辞めざるを得なくなります。同時に、家族にのしかかる経済的負担も大きなものになります。
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イギリスのヤングケアラー支援
「ヤングケアラー」という言葉はイギリスが発祥で、18歳未満が「ヤングケアラー」、18~24歳くらいまでが「ヤングアダルトケアラー」と分類されています。イギリスでは自閉症、アルコール中毒などの問題を抱えている労働者階級が多く、かねてから彼らが子どもたちに与える悪影響が問題視されていました。
このような背景から、イギリスでは1980年代後半より国を挙げてヤングケアラーの支援に取り組んできました。序盤でお伝えしたように、介護するにあたり子どもの教育を受ける権利が奪われてしまうという危機感から、率先して実態調査と対応策が取られてきました。
1995年には家族介護者に対する支援策である「ケアラー法」が制定されました。その後2014年の法改正時にはヤングケアラーに対する支援策も盛り込まれ、教育や就労支援、財政面での援助などが強化されました。
現在、イギリスの学校では、放課後にヤングケアラーの生徒たちが集まり、情報交換など交流を図るプログラムが実践されています。その場には、NPOなどの支援団体、学校の担当教員、地域ボランティアといった大人たちも参画し、ヤングケアラーたちをサポートしています。同じような境遇の仲間を見つけることで、勇気づけられ、自分自身がヤングケアラーであることに誇りを持てるような土壌づくりがなされているのです。
負担軽減のために、まずは悩みを打ち明けるところから
日本では、介護者の精神的な負担を減らす目的などから「日本ケアラー連盟」が2010年に創設されました。同連盟がヤングケアラー問題について実施した調査によると、学校の教員が生徒の介護負担に気づいた原因で圧倒的に多かった理由は「本人からの話」でした。
一方で「学校を休みがちになる」「家庭訪問で判明した」などの理由はさほど多くありませんでした。貧困問題では、自治体のケースワーカーの自宅訪問により初めてその事実が判明することが多いのですが、ヤングケアラー問題では周囲の大人が能動的に察知して発覚するケースは比較的少ないのです。介護者である子どもが周囲に悩みを打ち明けることがいかに重要であるかを示している結果とも言えます。
事実を知ることによって、教員や友だちなどはヤングケアラーを微力ながらサポートすることができます。家庭内の介護はプライバシーにかかわる問題ゆえ、なかなか人に話すことをためらう人も多いかとは思いますが、子どもの将来を左右する問題だけに、信頼の置ける人にきちんと現実を話す勇気も必要で、何でも気軽に相談できる環境づくりも求められます。
終わりに
ヤングケアラー問題を解決していくためには、法整備による経済的な支援は不可欠ですが、まずは大人と子どもたちの間で風通しのよい信頼関係を築いていくことが重要になってくるはずです。
イギリスの事例でも、学校の教員が支援プログラムや当事者コミュニティの形成に大きなイニシアティブを執り、ヤングケアラーの手助けとなっています。これからの時代、頼れる大人の支援を受けながら、決して子どもたちが孤立することなく学業と介護の両立を目指すことが望まれるのです。
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