介護のお役立ちコラム
いかに医療が進んでも、治療困難な病気はたくさん存在します。体中の筋肉を自由に動かせなくなるALS(筋萎縮性側索硬化症)もその一つで、高齢者の発症例も多く報告されています。
今回は、ALSの原因や病状などについて解説します。万が一ALSに冒されたとき、病と向き合うために必要な知識や心構えはどういったものなのでしょうか?
【監修者】
成田亜希子/内科医・公衆衛生医師
東京都出身、弘前大学医学部卒。青森県弘前市在住の医師。国立医療科学院や結核研究所で研修を積み、保健所勤務経験から感染症、医療行政に詳しい。
【所属学会】
日本内科学会、日本公衆衛生学会、日本感染症学会、日本結核病学会、日本健康教育学会所属。
指定難病に認定されているALSとはどのような病気なのか?
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、脳や末梢神経からの神経伝達を筋肉に伝える運動神経細胞(運動ニューロン)がダメージを受けて機能が損なわれる病気です。数年前、ALSの研究をする団体への寄付を目的とした、氷水が入ったバケツを頭からかぶる「アイス・バケツ・チャレンジ」がインターネットの動画サイトや個人のSNSでクローズアップされました。これによって、その名前だけでも知っているという人は多いと思います。
通常、私たちの体は脳からの指令が神経を伝わり、各部位の筋肉へ届くことによって全身を動かすことができます。ところが運動ニューロンが働かなくなることによって、脳がいくら指示を送っても体を動かすことができず、その結果、筋肉が落ちて全身がやせ細っていきます。やがて食べ物を飲み込むこと、そして自力で呼吸することすら難しくなるのです。
ALSは、パーキンソン病や悪性関節リウマチなどとならび、根本的な治療方法が確立していない「指定難病」に認定されています。日本では、発症する年齢は50~74歳にもっとも多く見られ、性差は男女比1.3:1とやや男性が多いのが特徴です。現在のALSの患者数は、全国で9,636人(2017年度)にのぼり、1990年当時(2,607人)と比較して、この30年ほどの間で患者数が約3.7倍に増えています(厚生労働省発表「衛生行政報告例」および難病情報センター「難病対策提要」による)。
また、高齢者に発症が多く見られることから、少子高齢化を迎える国では引き続き患者の増大が予想されます。もちろん日本も例外ではありません。病状が進行すれば寝たきりになるのは避けられず、経管栄養(胃ろう)や人工呼吸器に頼らなくては生きていけなくなるため、24時間体制での手厚いケアが求められます。
未だ解明されていないALSの病因
ALSの病因についてですが、日夜研究が続けられているものの、残念ながら今のところ決定的な発症の原因は解明されていません。
一説に、神経伝達物質の一つであるグルタミン酸が過剰に伝達されることによって運動ニューロンのダメージを引き起こすことが原因と言われています。また、細胞の老化を引き起こすフリーラジカルが発生しやすいことで運動ニューロンがダメージを受けている可能性も考えられます。ほかにも家系的遺伝や地域性が関連しているという専門家の意見もありますが、いずれも確かな病因とはされていません。
ALSで見られる初期症状
ALSは、以下の4タイプの初期症状が現れます。それぞれ発症する部位が異なるものですが、いずれも加齢に伴う様々な脳機能障害に似た症状とも言えるため、ALSの発症に気づくのが遅れてしまうことも考えられます。
●上肢型
四肢の筋力低下と筋委縮から始まる病状で、主に腕を動かすことが難しくなります。具体的には、箸が持てない、字が書けない、着替えに時間がかかるといった症状です。
●下肢型
下肢の腱反射などが低下する病状で、まずは歩行困難が見られます。具体的には、歩くスピードが遅くなる、階段の昇降が厳しくなる、スリッパが脱げやすくなるといった症状です。
●球麻痺型
舌、咽頭、口蓋などの運動機能が衰える病状です。飲み込みができなくなる(嚥下障害)、ろれつが回らなくなるといった症状が見られるようになります。
●呼吸筋麻痺型
呼吸困難がいきなり現れる症状です。気管切開が必要になる可能性が高く、進行すると人工呼吸器が欠かせなくなります。上記3つに比べ、呼吸筋麻痺型から発症するパターンは非常に少ないです。
検査を経てからALSと診断されるまで
体に様々な異変が見られる場合でも、直ちにALSに罹患しているとは予想できないことでしょう。まずはかかりつけ医を受診し、医師の診断を仰ぐようにしてください。経過観察や投薬では症状が改善されない場合、大学病院や専門のセンターなどを紹介してくれるはずです。専門性の高い病院ではレントゲンやMRI、その他精密な検査ができる設備が整っているため、きちんと専門医の診察を受けるようにしてください。
病院では基本的な問診に始まり、画像検査や髄液検査、針筋電図といった電気生理学的検査を受けることになります。ほかの病因を排除していくという理由で複雑な検査を行うため、場合によっては長期の通院となり、最終的にALSと診断されるまで1年ほどかかるケースも考えられます。通院に付き添う家族にとっても大きな負担になることは容易に想像できますが、診断後の適切なケアにつなげていくためにも、粘り強く患者に付き添い、励ましてあげるようにしてください。
患者と向き合い、痛みを緩和させるケアを行う
肝心の治療方法ですが、前述のとおりALSは完治が望めないのが現状です。しかし、適切なケアによって病気の進行を遅らせることや、痛みを和らげるケアは可能です。それでは、ALS患者にはどのようなケアが実施されているのでしょうか。
もっとも有効とされている薬物治療は「リルゾール」の服用です。現在、日本で唯一認可された治療薬で、病状の進行を遅らせる効果があることが実証されています。ALSはグルタミン酸と関連が深いことは前にも述べましたが、リルゾールにはグルタミン酸の働きを抑制する効果があります。
初期の段階では、同じく病気の進行を遅らせる「ラジカット点滴(一般名エダラボン)」を用いるケースもあります。初めに2週間点滴をしてその後2週間休薬するというもので、以後、月に10回ほど点滴し緩和を試みる手法です。しかしながら、腎機能が弱っている患者には適用できないといったデメリットもあります。
病状が進行してくると、激しい痛みが伴うことがあります。そのときはマッサージや体位変換、温熱療法などの対症療法を試みます。決定的な治療とはなりませんが、一緒に暮らしてきた家族だからこそできるケアでもあります。積極的に話しかけ患者の不安を取り除くことや、気分を前向きに持っていけるようなコミュニケーションがケアのカギとなります。
ALSは体が動かせなくなるものの、意識が混濁したり痛みが鈍く感じたりするような症状は出ないため、患者にとって非常に辛く、残酷な病気と言えます。最近はテクノロジーの発達によって、残存した一部の筋肉や眼球の動きで意思の伝達やカナ文字の入力ができる装置も次々と登場しています。声も出せず寝たきりの状態になっても、最後までコミュニケーションを図ることはできるのです。
もしもALSになってしまったら
どうしても家庭でのケアが難しくなった場合、老人ホームなどの施設に入所するのも有効でしょう。しかし、ALSは高度な医療を必要とする病気であり、最終的には人工呼吸器の装着が必要となることから、受け入れ可能な施設が限られてくるのが現状です。
病気を受け入れ、苦痛に打ち勝っていくためには、何よりも患者本人の強い意志が求められます。将来的な看取りケアも含めて、本人と家族、医療と介護の専門家の意見も交えながら、どのように余生を過ごすのか、じっくりと検討する必要がありそうです。
■参考記事
介護保険適用サービスとの併用も可能?障害者区分4以上なら考えたい、「重度訪問介護」制度
■参考文献
・筋萎縮性側索硬化症-Wikipedia
・ALS_ 筋萎縮性側索硬化症ってどんな病気?
・診断後、まず読んでほしいこと _ JALSA _ 日本ALS協会
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)│病気について知りたい
・高齢化で急増!筋萎縮性側索硬化症ALSについて脳神経内科医が解説
・LIVE TODAY FOR TOMORROW
・意思伝達装置一覧 | 東京都障害者IT地域支援センター
・難病者数2017年度末現在_都道府県別(PDFファイル)
コロナ禍でも面会ができる施設特集はこちら
コロナ禍でも
面会できる施設特集
老人ホーム・高齢者住宅
運営事業者の方へ
老人ホーム検索サイト「さがしっくす」では、事業者様のご入居募集のニーズに合わせて、2つのご掲載プランからお選びいただけます。