介護のお役立ちコラム
外を徘徊する。ものを盗られたと思い込む。もの忘れが激しい。着替えができない......。認知症になるとさまざまな症状が現れますが、これらの症状は、実は2種類に分けられます。発症には個人差がある「周辺症状」と、すべての人が発症する「中核症状」です。
「中核症状」は認知症が進行し脳の機能が低下することで現れる症状をさし、「周辺症状」は中核症状に併せて本来の性格や人間関係、環境などが影響することであらわれます。
今回は、中核症状に注目し、その症例と対処法について見ていきましょう。なお、周辺症状については「認知症の周辺症状(BPSD)の種類と対応」の記事にて詳しく解説していますので、こちらを参照してください。
【監修者】木村 眞樹子医師
医学部を卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。
認知症の中核症状とは
「中核症状」とは、「記憶障害」「見当識障害」「失行」「失認」「失語」「実行機能障害」といった症状です。脳の細胞が壊れ、脳の機能が衰えて起こる直接の症状であり、認知症のひとでは必ず起こりえます。
1. 記憶障害
認知症の中核症状としてよく見られるのが、記憶障害です。認知症を発症すると、早期に記憶する能力の障害が起きます。 健常な人でも年齢を重ねるほどに物忘れが多くなりますが、何かヒントや小さなきっかけがあれば思い出すことができます。しかし、行動そのものが記憶に残っていないということがおきます。
症状が進行するにつれ、以前は覚えていたはずの記憶も欠損していきます。まだ忘れずに残っている記憶を頼りにするため、自分の現状を把握できなくなることも。アルツハイマー型認知症ではとくに、経験したできごとに関する「エピソード記憶」が失われてしまい、周囲とトラブルになることも少なくありません。
症例
・財布を一時的に机の上に置いたのに、財布を移動させたことを忘れてしまう
・食事をしたこと自体を忘れてしまう
・仕事を退職したのに、仕事着に着替えて出勤しようとする
対処法
財布などの小物は常に身につけてもらったり食事をするたびに記録をつけたりするような工夫をしましょう。そうすることで、高齢者はメモを見て自分の覚えたことや行動を見直すことができます。
2. 見当識障害
今日が何月何日で今何時くらいかがわからない。自分がどこにいるのかがわからない。知っているはずの人を見てもわからない、別の人と認識してしまうといった状態を見当識障害といいます。
最初に、時間に関する見当識が失われ、徐々に場所に関する感覚を失うと道に迷うようになってしまいます。
症例
・自分の家ではないと思って、外に出て行こうとする
・夏なのに暖房をつけたり、厚着したりする
・夜中なのに朝だと思い、起きて新聞を取りに行く
・家の中の場所がわからなくなり、トイレ・風呂場に行けない
・近所に出かけたら、自分の家に戻ってこられない
・毎日会っている家族は認識できても、親戚や友人をみても誰だか認識できない
対処法
見当識障害の方は自分が孤独だと感じやすいので、介護者が常に近くにいる状況をつくることが大切です。また、外の環境に対する管理能力が乏しくなるので、服装を含めた体温調節や季節特有の対策をしてあげるようにしましょう。
徘徊や家に出ると戻れなくなるからといって屋外の刺激を断つと、逆に症状を進行させてしまいます。自分の足で歩いたり、歩いたときの景色の変化、季節の変化を感じたりすることが脳にはよい影響をもたらします。
3. 失行
体を動かせるにもかかわらず、目的をもった行動の方法がわからなくなる状態を「失行」といいます。以前は普通にできていたことができなくなってしまいます。
症例
・服の着方がわからなくなってしまう
・鍵穴に鍵ではない物を入れて開けようとする
・じゃんけんができない
・お箸の使い方が分からなくなり、箸を上手に使って食事をすることができない
対処法
介助者は見守りながら、できない時だけ手を貸して教えてあげるようにしましょう。すべてをやってしまうと余計に何もできなくなってしまう可能性があるので注意が必要です。
4. 失認
体の器官(目・耳・鼻・舌・皮膚等)に問題がないにもかかわらず、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の五感に関係する認知能力が正常に働かなくなる状態を「失認」といいます。見えているのに、聞こえているのにそれが何なのかわからなくなる状態です。五感のすべてに一気に障がいが現れるのではなく、一部分から欠損していくことが一般的で、周囲の人が支援すれば正しく認識することができます。
症例
・ゴミ箱をトイレと間違える
・遠近感がなくなる
・触られていることはわかるが、部分がわからない
対処法
こちらも介助者が、誘導してあげたり補佐役に努めるようにしましょう。
5. 失語
言葉をうまく操ることができなくなることを「失語」といいます。失語は運動性失語(ブローカ失語)と、感覚失語(ウェルニッケ失語)の2種類にわけられ、脳細胞が壊れていくなかで、どの部分が障害されるかで症状の出方が分かります。運動性失語では相手のいうことは理解できるものの、言葉がでてこない、文字がかけないという状態。感覚性失語では、流暢に言葉がでてくるものの、相手の話は理解できない、読んだものを理解出来ない状態です。
症状例
・話せる言葉の数が少なくなり、言葉の長さも短くなる
・サラサラとしゃべっていても、内容の意味がない
・相手の話を意味のある文章だと理解できない(感覚性失語)
・相手の話が聞こえて意味を理解できても、自分は話せない(運動性失語)
・読めても言語を理解できない
・言葉は理解できても復唱できない
・文字が書けない・計算ができない
対処法
長い言葉や文章を使うのをできる限り避けましょう。簡単な言葉でゆっくり話したり、ジェスチャーを使ったりすると理解しやすくなります。また、1度で理解できないこともあるので、繰り返したり少し表現を変えて伝えるなどの工夫も必要です。
6. 実行機能障害
計画を立てて順序よく物事をおこなうことができなくなることを「実行機能障害」といいます。ある目標に向かって手順通りにできない、自立できないことで日常生活をひとりで送れなくなってしまいます。
症状例
・食事の準備ができない
・計画的な買い物ができない
・電化製品の使い方がわからない
・予定外のできごとに対処できない
対処法
何かを一緒になってできるようにしていきましょう。食事の準備も一緒に行いながら細かく段取りや作業を確認したり、買い物をするときも前もって購入品を紙に書き、次はどこへ行って何を買うのかを確認しながら過ごしてみてください。
脳に刺激を与える環境をつくることが大切
認知症には、中核症状のいずれかが必ず現れます。介助する側としては、できる限り側で寄り添い一緒に行動してあげましょう。だからといって、行動を制限しすぎるのもよくありません。 家事の協力や友人との交流、スポーツ観戦、音楽鑑賞など、脳に刺激を与えられるような環境をつくっていき、少しでも進行を緩やかにできようにしていきましょう。
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