介護のお役立ちコラム
事故による頭部のケガや脳卒中などの病気をきっかけに発症する高次脳機能障害。脳に損傷を負うことで、言葉が上手く出てこなくなったり、うっかりミスが増えたり、長時間の作業ができなくなったりして日常生活に支障をきたします。
今回は、高次脳機能障害の症状や治療、リハビリテーションなどについて詳しく解説します。また、誤診されやすい認知症との違いについてもお伝えします。
【監修者】
木村 眞樹子医師
医学部を卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害では、滑らかに話せない、話を理解できないという失語症のほかに、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害など様々な症状が現れます。一人ひとり重症度は異なり、重複して症状が出るケースも多々みられます。
高次脳機能障害は外見からはわかりにくく、本人も障害についてよくわかっていないことがあり、周囲からの指摘が手がかりとなって見つかる場合もあります。
記憶障害
・新しいことを覚えられない
・物の置き場所を忘れる
・食事をしたか思い出せない
・何度も同じ質問をする
・通い慣れた道順がわからなくなる など
注意障害
・注意が散漫になり作業に集中できない
・うっかりミスが増える
・同時に複数のことをできない
・ぼんやりとして表情が乏しくなる など
遂行機能障害
・約束の時間に遅刻する
・計画的に物事を進められない
・ゴールや締切を決められない
・急な予定変更に対応できない など
社会的行動障害
・自己中心的になる
・大声で怒鳴り散らす
・暴力や性加害など反社会的行為を起こす
・意欲が低下し一日中ベッドから離れない など
認知症との違いについて
高次脳機能障害と間違えられやすい認知症。異なるのは主に下記の2点です。
脳を損傷した時期が明らか
発症時期をはっきりと特定できない認知症と異なり、高次脳機能障害では交通事故による受傷や脳卒中の発症など、きっかけが明確です。頭部CTや頭部MRIなどの検査で、物理的に病変部を確認したうえで診断されます。
進行性の障害ではない
認知症は一度発症すると、少しずつ進行していく不可逆的な脳疾患です。高次脳機能障害は、進行性の病気ではありません。程度にもよりますが、治療やリハビリテーションである程度の回復が見込めます。
治療・リハビリテーションについて
はじめに脳卒中やケガなど、高次脳機能障害の原因となっている病気の治療を行います。病状が安定してきたらリハビリテーションを主として回復を目指します。
医学的リハビリテーションプログラム
病院やクリニックにおいては、医学的リハビリテーションプログラムを最大6ヶ月実施します。日常生活における問題の聞き取りや数々の検査を組み合わせて行い、障害の特徴や重症度を明らかにします。その後、一人ひとりの状態に合った訓練が行われます。
その後、必要に応じてリハビリテーション病院や身体障害者更生施設、地域利用施設などと連携して、生活訓練プログラム、職能訓練プログラムに移行していきます。
生活訓練プログラム
生活訓練プログラムでは、規則正しい生活リズムの確立、買い物、金銭管理、洗濯、掃除、料理、公共交通機関の利用など、日常生活に必要な実習を行います。対人技能を向上させるために、グループワークをすることもあります。
職能訓練プログラム
職能訓練プログラムでは、作業実習や技能講習、グループワーク、職場実習などを通して、可能な業務や処理能力、課題などを明らかにします。見極めと改善を繰り返すことで、適切な仕事の選択や職場の環境調整につなげます。
社会復帰のための支援サービス
リハビリテーションによって高次脳機能障害の症状が回復しはじめると、自宅復帰や社会復帰の準備を始めます。突然思うように働けなくなった本人にとって、特に若い方にとっては「再び働くこと」は大きな目標となります。社会復帰に向けて、活用できる支援サービスをみていきましょう。
障害福祉サービス
障害福祉サービスには、「自立支援給付」と「地域生活支援事業」があります。自立支援給付では、1割の自己負担で介護サービスや就労支援、自立訓練、通院でかかる医療費の支給などのサービスが利用できます。地域生活支援事業は市町村が行う事業です。本人や家族からの相談の受付や交流の場などを提供しています。
介護保険サービス
40歳以上で介護や支援が必要とされる場合は、介護保険サービスを受けられます。1〜3割の自己負担で、デイサービスやデイケア、訪問リハビリテーション、短期入所、グループホームなどの利用が可能です。
障害者手帳
症状によって下記3つのいずれか、または複数の障害者手帳を持つことができます。
・身体障害者手帳
・療育手帳
・精神障害者保健福祉手帳
高次脳機能障害では突然障害を持つことになるため、障害者手帳の取得に抵抗を覚えるケースが少なくありません。障害者手帳を持っていない場合でも、診断書があれば障害福祉サービスは受けられます。
障害者手帳には税金の減額や免除、各種施設の無料での利用、障害者枠での雇用などメリットも多いためよく話し合うことが大切です。障害者手帳によって受けられるサービスは、障害の程度や地域によっても変わってくるため、市区町村の窓口で確認しましょう。
就労準備の支援サービス
就職・復職の準備に関しては、まず下記のような就労支援機関へ相談に行きます。
・ハローワーク
・障害者職業センター
・市町村障害者就労支援センター
・障害者就業・生活支援センター
今の自分に合う働き方を見つけるために、様々な訓練・実習が受けられます。再度働くにあたって職種が変わる場合は、専門機関で職業訓練を受けるのも手です。
ジョブコーチ支援制度
実際に就職・復職が決まった場合は、ジョブコーチ支援を受けることができます。ジョブコーチは、障害を持つ方が職場に上手く適応できるように職場訪問をし、本人と事業場の双方の支援からフォローアップまでを行ってくれます。
トライアル雇用
トライアル雇用とは、原則3ヶ月の試用期間の後に、本人と企業の双方の合意があれば本採用に至る制度です。実際に働いてみることで、新しい知識や技術、経験などを得ることができます。また、新しい人間関係ができて会話が生まれることにより、社会性を取り戻していくことが期待できます。
一人ひとりの特徴やできることを本人と周囲がよく理解することが重要
認知症と間違われやすい高次脳機能障害。現時点で一般に広く知られているとは言えず、就職・復職先で人間関係の問題などが生じて、再び休職するケースもよくみられます。症状や重症度の個人差が大きい障害であるからこそ、一人ひとりの特徴やできることを本人と周囲がよく理解することが重要です。
様々な支援サービスを受けられることを知識として持っておくことも大切です。高次脳機能障害は本人が辛いことはもちろん、家族にとっても非常に負担が大きいため、不安なことや知りたいことがある場合は気軽にお近くの支援機関の相談窓口に問い合わせましょう。
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