介護のお役立ちコラム
今や高齢者の4人に1人が発症すると言われている認知症。その症状は認知症の種類や患者自身の性格などによって異なるものですが、本来ならば考えにくい複数の症状が併発する可能性もあります。今回は、そのような複合症状の一つである「レビー・ピックコンプレックス」について解説します。
【監修者】
伊藤メディカルクリニック院長 伊藤 幹彦医師
東京医科大学卒業後、東京医科大学第2外科(心臓血管外科)入局。東京医科大学八王子医療センター心臓血管外科や東京警察病院外科医長などを経歴し、現在は伊藤メディカルクリニックの院長を務める。これまでの術者としての経験をもとに、全身管理の大切さをモットーとし、健康維持への貢献を目指している。
レビー・ピックコンプレックスとは"複合型"の認知症
レビー・ピックコンプレックスとは、「レビー小体型認知症」の特徴的な症状である幻想・幻聴や、体のいたる部位がこわばり拘縮するパーキンソニズムに加えて、暴力・暴言などの迷惑行為、徘徊などの異常行動といった「ピック病」にみられる症状が同時進行で現れる疾患概念です。
レビー・ピックコンプレックスは、2012年に名古屋フォレストクリニック院長の河野和彦医師によって提唱されました。河野氏は、医師と患者家族が同じ教材で認知症を学んでいく重要性を説いており、その治療法「コウノメソッド」を自身のクリニックのホームページで紹介しています。その中で、レビー小体型認知症とピック病を診断するためのスコアテストを掲載していますが、両者のスコアの合計点が一定基準に達した時点で「レビー・ピックコンプレックスと診断できる」と記しています。
レビー・ピックコンプレックスの原因
レビー・ピックコンプレックスの発症原因について、まずはレビー小体型認知症とピック病それぞれのメカニズムについて述べます。
レビー小体型認知症は、大脳皮質の神経細胞内に「レビー小体」と呼ばれる特殊なタンパク質の一種が付着し、脳の神経細胞が減少することによって起こる認知症です。付着するタンパク質の種類や減少する神経細胞の種類はアルツハイマー型認知症と異なるため、現れる症状も、個人差はあるもののアルツハイマー型とは違ったものになります。
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一方でピック病は、脳の前方にある前頭葉と側頭葉に「ピック球」と呼ばれる神経細胞の塊が付着して起こる認知症です。部位の名前を取って「前頭側頭型認知症」とも呼ばれていますが、前頭側頭型認知症患者の中にはピック球の存在が確認できないケースもあるため、医学的には"ピック病は前頭側頭型認知症の一種"と認識されています。ピック病は40~60歳で多く発症することが確認されており、比較的若年層が発症する病気であることから「若年性認知症」とも呼ばれています。
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レビー・ピックコンプレックスは、この2つが同時に現れる認知症と考えられます。大脳皮質で始まった異変が、時間の経過とともに前頭葉と側頭葉でも起こるのです。
両者とも発症の詳しい原因は解明されていません。そればかりか、認知症研究が不十分だった時代に、アルツハイマー型などほかの認知症と混同して診断されて、正しい処置を受けることができずに悪化した患者も多く存在します。
レビー・ピックコンプレックスの進行について
レビー小体型認知症の場合、初期段階では一般的な記憶障害(物忘れ)に始まり、本来そこにいないはずの物が見えると感じる幻覚、抑うつ、就寝中に急に騒ぎ出すレム睡眠行動障害があります。
レビー小体型認知症はパーキンソン病と類似点があり、脳からの神経伝達物質の異常によって身体拘縮が見られるようになります。中期になると、物忘れがより重度になり、歩行困難など身体的な症状も現れるようになります。
そして末期には、記憶障害やうつ症状、睡眠障害がさらに悪化し、パーキンソニズムによって身体の自由がほとんど利かなくなり寝たきりの状態になります。また、筋力の拘縮から嚥下機能も著しく低下し、口から物を食べるとこも難しくなるケースもあります。
ピック病については、最も顕著に現れるのが注意欠陥・多動性障害(ADHD)や人格障害などです。ADHDでは不注意(集中力の欠如)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(思いつくとすぐ行動に移す)といった、どこかそわそわした態度が表に出るため、家族など周囲の人は異常に気付きやすくなります。
人格障害については、少し注意しただけで急に怒り出すことや、善悪の区別がつかず痴漢や万引きなどの反社会行動に出ることもあります。温和な性格の人でも十分に起こり得る症状であり、上記以外にも暴飲・暴食、人のものまねをする、不潔状態を放置する(無気力・無関心)といったあらゆる問題行動が見られるようになります。
ピック病は、躁うつ病や総合失調症などほかの精神疾患と混同されることが多いため、医療機関での検査と、処置後の経過観察をしっかり行う必要があります。
優先されるべきは薬物療法か? 生活習慣改善か?
現在のところ、レビー・ピックコンプレックスを含むレビー小体型認知症患者への投薬は「ドネペジル塩酸塩」(商品名:アリセプト)を中心に処方されています。この薬は脳内神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素の働きを抑えるもので、投薬によってアセチルコリンの分泌量が増えて、認知症の中核症状である記憶力や見当識の問題が改善されるメカニズムです。
ところが、アセチルコリンの分泌量が増えると興奮状態になるケースもあるため、精神状態が不安定になりがちなレビー小体型患者への投薬は慎重にならざるを得ません。ピック病については、脳内伝達物質のドーパミンを抑制する向精神薬が処方されることがありますが、根本的な治療薬は今のところ存在しません。
パーキンソン病患者には「レボドパ」「ドーパミンアゴニスト」などドーパミンの分泌を促進する薬が有効ですが、ドーパミンによって興奮状態になるため、レビー・ピックコンプレックスへの適用は限定的になります。ドーパミンアゴニストは副作用が強く、幻覚などの症状が出ることから、認知機能障害のある高齢者へはレボドパが推奨されています。
薬だけに頼らないこと。そして家族ができるだけ一緒の時間を共有してあげることなどの配慮が必要です。レビー・ピックコンプレックス症状の場合、家族が良かれと思って助言したことや、本人が決めている生活パターンを崩されることに猛反発するケースも考えられます。まずは病気や患者本人の性格をよく理解した上で、わずかな投薬とQOL(生活の質)の向上。この両輪で闘病していくことが望ましいでしょう。
まずは信頼できる医師を探すことから
徐々に認知症の研究が進められ、専門医の育成とともに正確な診断と適切な処置が図られるようになりました。しかし、認知症の症状は個人差も多く、時間の経過とともに病状も複雑になり、ここに来てレビー・ピックコンプレックスのような新しい概念も生まれています。まずは親身になって相談できる信頼の置ける医師を見つけて、患者家族と専門家が足並みをそろえて認知症に立ち向かっていくことが重要です。
■参考文献
『クスリに殺される 病院の認知症・高齢者治療 笑顔で死ねる家族の認知症・高齢者治療!』双葉社
『レジデントのためのパーキンソン病ハンドブック』山本光利著 中外医学社
■参考記事
レビー・ピックコンプレックス_認知症と美しい老後
認知症_森外科医院
認知症のいろは~_東京蒲田クリニック
院長:河野和彦の紹介_名古屋フォレストクリニック
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