介護のお役立ちコラム
認知症の進行を抑制するには、早期発見が重要です。認知症が疑われる場合、まずは医療機関で診断してもらい、ほかの病気による症状の可能性がないかを判断します。では、その医療機関では最初にどのようにスクリーニングしているのでしょうか。今回は、認知症の世界的なスクリーニングテストの一つである「MMSE」について詳しく解説していきます。
【監修者】
矢島 隆二 医師
脳神経内科・認知症・総合内科などを専門としている。新潟大学医学部卒業後、地域中核病院や大学病院などでの高度急性期医療から地域の総合病院まで幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症の研究も行い、医学博士も取得している。
現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点をおいた神経内科を主体とした医療を担っている。
神経難病やアルツハイマー病などの治験も行っているほか、講演や執筆の依頼も積極的に受けている。日本リハビリテーション医学会 認定臨床医の資格取得。
MMSE(ミニメンタルステート検査)とは?
現在、多くの認知症において、根本的な治療法は研究の途上にあります。しかし認知症の原因によっては、早期発見・早期治療によって進行を遅らせることが可能になってきています。
また、認知症とは認知機能が低下する疾患の総称です。そのなかにアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、血管性認知症などがあり、必要な薬やケアの仕方もそれぞれ異なります。まずはきちんと医療機関で検査を受けることが必要なのです。
認知症かどうかの簡便な評価として「MMSE」と呼ばれる認知症スクリーニング検査が行われることがあります。認知機能の低下の度合いについて、10分程度の短い時間で評価できるのが特徴です。MMSEとは、「Mini-Mental State Examination(ミニメンタルステート検査)」の略で、1975年にアメリカのフォルスタイン夫妻によって発表されました。1974年に日本で認知症のスクリーニング検査として「長谷川式簡易知能評価スケール」が登場した翌年のことです。MMSEは、現在に至るまで認知機能のスクリーニング検査として、世界中で使用されています。
またMMSEの検査費用には医療保険が適用され、自己負担が3割の場合は240円、2割の場合は160円、1割の場合は80円程度です。
MMSEのテストの流れと点数の付け方について
では次に、MMSEの流れについて見ていきましょう。ただし、各項目の内容は著作権の関係で、こちらでは開示できません。これまでにMMSEの日本語版は複数作成されており、それぞれ少しずつ異なっています。現時点で最新の日本語版は、2019年に改訂されたMMSE-Jです。
MMSE-Jの評価基準の目安となるカットオフ値
MMSE-Jは30点満点で、23点以下を認知症の疑いと判定します。ただし、心理検査に精通していない人が実施すると、検査結果にばらつきが生じて適正な判断ができないため、医療機関などで実施するのが望ましいでしょう。
MMSEの設問とその意図
MMSEでは、以下の11項目を評価して判定しています。
1.時間の見当識(1点×5問)
季節や時間に関する質問をして、時間の見当識を確認します。
2.場所の見当識(1点×5問)
場所に関する質問をして、場所の見当識を確認します。
3.3つの言葉の記銘記憶(1点×3個)
質問者が三つの単語を伝え、被験者はその場で暗記して復唱します。新しいことを覚える能力を確認します。
4.計算(1点×5個)
決められた時間内に、正確に暗算ができるかをチェックします。
5.遅延再生(1点×3個)
3の質問で覚えた三つの単語を言ってもらいます。これにより、新しく覚えた記憶を、上記「4」の計算課題を組み込んだうえで引き出せるかを確認します。
6.物品呼称(1点×2問)
質問者が提示した物品の名称を答えてもらいます。なじみのある名称をきちんと記憶できているかを確認します。
7.文の復唱(1点)
質問者が短い文章を口頭で述べ、そのまま復唱してもらいます。一定の長さの文を正確に記憶できるかを確認します。
8.口頭指示(1点×3段階)
三つの動作指示を出して、確実に遂行できるかを確認します。一度の指示で複数の動作を段階的に行えるかを問うものです。
9.書字理解(1点)
指示内容を書いた紙を被験者に見せて、その通りに行動してもらいます。こちらの設問では、読解能力を確認します。
10.自発書字(1点)
構文能力が備わっているか、被験者に短文を一つ書いてもらいます。
11.図形模写(1点)
あらかじめ用意した図形が描かれた紙を渡し、同じ図を描いてもらいます。物の位置関係(視空間認知機能)を正確に捉えているかを確認するものです。
「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」との違い
日本の臨床現場における認知症のスクリーニング検査では、1991年に長谷川式簡易知能評価スケールを改訂した「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R/以下、長谷川式)」の知名度が高く、一般的に広く用いられています。MMSE、長谷川式ともに設問の構成はほぼ同じですが、いくつか相違点もあります。
一番の違いは、長谷川式の場合、記述や動作、描画の確認項目はなく、すべて口述による回答となっていることです。
次に、長谷川式に比べてMMSEの方がより幅広い認知機能を評価しています。長谷川式は遅延再生の配点が高く、記憶力が低下している方はより減点されやすい設計となっているのです。
結果については、長谷川式では30点満点中20点以下で「認知症疑い」とみなされ、MMSEでは目安となる点数が違う点も異なります。
また、MMSEが世界中で用いられているのに対して、長谷川式は主に日本で活用されています。
MMSEを受検する前に
MMSEで認知症が疑われる場合、病院の脳神経内科や脳神経外科、精神科、認知症を専門とする医師が開設している「もの忘れ外来」などで、より精密な検査が行えます。
また、認知症スクリーニング検査の結果に一喜一憂する必要はありません。MMSEで23点以下のスコアだったとしても、あくまで一つの目安にすぎず、認知症かどうかはそれまでの病歴や生活の状況、画像検査など、総合的な評価のなかで判断されるものだからです。
スクリーニング結果をもとに、その次の行動に移すことが重要なのです。
早めの認知症スクリーニング検査が早期発見のカギに
ご自身が認知症だと認めたくない思いから、検査をためらう高齢者も多くいます。しかし、認知症は早期治療が肝心です。
スクリーニング検査は病院だけでなく、診療所やクリニックでも多く実施されています。「もの忘れが増えた」などご自身の認知機能の低下が気になる方は、まずはかかりつけの先生に相談してみると良いでしょう。
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