介護のお役立ちコラム

【専門医監修】認知症の「物盗られ妄想」とは?認知症の方に泥棒扱いされてしまった場合の対応|認知症のコラム

【専門医監修】認知症の「物盗られ妄想」とは?認知症の方に泥棒扱いされてしまった場合の対応|認知症のコラム

更新日:2016.09.26

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認知症の方のなかには、「物盗られ妄想」の症状が見られる人がいます。この症状は認知症でよく見られる被害妄想の一つで、自分の持ち物を誰かが盗んだと疑ってしまうものです。場合によっては日常生活に支障を来すこともあります。

今回の記事では、物盗られ妄想が起こる原因や周囲の人の取るべき対応について解説します。

物盗られ妄想の原因は認知症による記憶障害

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物盗られ妄想はどうして起こるのでしょうか。それを知るには、認知症による記憶障害について理解する必要があります。アルツハイマー型認知症をはじめとする多くの認知症では、脳の海馬という部分の損傷が見られます。この海馬は、新しく得た情報を脳の記憶の図書館に保存する働きをしています。このため、海馬の損傷が強くなると、新しい記憶は保存されずにその場で消えてしまいます(近時記憶障害)。

目の前にある財布をカバンにしまった際、あなたは「財布をカバンに入れた」記憶があるので安心していられます。その記憶が消えてしまったら、どうでしょうか?目の前にあった財布が突然消えたら、誰かが持ち去ったのではないかと不安になるのではないでしょうか。認知症の方に「家族が財布を盗った」「誰かが家に侵入して財布を持って行った」といった物盗られ妄想が見られるのはこのためです。

また、認知症の方の脳は、海馬のみならず全体的に機能の低下が見られることが多く、同時に思考能力も低下していることがあります。このため、「物がない=盗られた」と決めつけてしまうのです。

喪失感や不安感が物盗られ妄想につながる

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物盗られ妄想が出る要因として、認知症の方の不安な気持ちがあります。認知症でなくとも、老年期は「喪失」の時期と言われており、さまざまな不安がつきまといます。

「仕事を退職して社会的な役割がなくなる」「家族や親しかった友人を亡くす」「病気により健康を失う」などが重なり、生きる目標を見失ってしまうこともあります。そんななかで自分が生活している「足跡」でもある記憶を失ってしまうのは、さらに大きな不安を生じます。

認知症の方は自分が認知症だと理解していないケースもありますが、多くの場合、「以前はできたことができなくなる」「周囲の言っていることが理解できない」といったことを不安に感じています。日常的に家族に「どうしてできないの」「さっき言ったのに!」と責められていると、家庭内で孤独感や疎外感を感じることにより物盗られ妄想が見られやすくなってしまいます。

家族以外の人を自宅に入れることも、物盗られ妄想を悪化させる可能性があります。ケアマネジャーやヘルパーなどが訪問する際は、以下のような工夫が必要です。

  • ・直前に説明する(前もって説明するのは良いですが、それだけでは当日に忘れてしまう可能性があります)
  • ・到着したら改めて紹介する
  • ・訪問した方にも分かりやすく自己紹介してもらう

物盗られ妄想への対応では決して本人を否定しない

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認知症の家族に物盗られ妄想が見られても、決して本人を否定してはいけません。「そんなわけがない」「あなたの思い違いだ」と否定しても多くは理解が得られないうえ、「信じてもらえない」という負の感情を抱かせ、本人の自尊心を傷つけてしまいます。

ご家族は、前述の「突然、財布が消えてしまった」という状況を自分が体験したら...と想像してみましょう。近くにいた人に尋ねて「自分はやっていない」と強く主張されても、余計に怪しく思えてしまうかもしれません。「えっ、財布がなくなったのですか?それは大変、一緒に探しましょう!」と心配された方が気持ちは落ち着くと思いませんか?

物盗られ妄想に限らず、認知症の方の妄想には、本人に対して「共感」を示すことが重要です。「共感」といっても、「この家に泥棒が入った、大変だ!」など、妄想を助長するような発言は良くありません。「財布が見当たらず不安ですよね」「心配ですよね」など、妄想の内容ではなく本人の気持ちに共感を示す声かけを心がけましょう。「見つかるまで一緒に探しますよ」など、本人が安心できるような言葉を選ぶことが大切です。

こういった声かけも耳に入らないほど怒ったり興奮している場合には、一度その場を離れて距離を取ることも必要です。ただし、逃げるよう無言で立ち去ってはいけません。「ちょっとトイレに行かせて」とお願いするのが良いでしょう。

妄想の対象となってしまった人の気持ちも大切に

認知症は進行により症状が変化していきます。物盗られ妄想はずっと続くわけではありませんし、適切な対応により改善が望めます。

しかし、いくらご家族が「認知症は脳の病気」と割り切って考えても、認知症の家族に心ない言葉をぶつけられるのは辛く悲しいものです。適切な対応について理解していても、気持ちがついていかず、つい厳しい言葉が出てしまうこともあるでしょう。

独りで抱え込まずに、主治医やケアマネジャーなどに辛い気持ちを相談してください。良い認知症のケアのためには、本人だけではなく家族の心のケアも大切です。

早めにかかりつけ医や行政機関に相談を

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家族に物盗られ妄想の症状が見られた場合は、「不安な気持ちへの共感」を示し、本人の自尊心に配慮した対応を心がけましょう。

物盗られ妄想は、認知症の周辺症状の一つです。治療方法は、原因となった認知症の種類によっても異なります。また認知症のほか、精神疾患の統合失調症やうつ病が原因になっていることもあります。

症状が改善しない場合は、かかりつけ医や地域包括支援センターの窓口などで相談しましょう。

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【監修者】青栁 宇以医師

精神保健指定医、日本認知症学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医。

関西医科大学精神神経科を経て、平成25年より根岸病院に勤務。平成29年1月より同病院認知症疾患医療センターのセンター長に就任。

認知症診療に関しては入院診療、訪問診療、もの忘れ外来と様々な形で関わっており、認知症を支えられる街づくりを目指して、市民講演や研修会など正しい知識の普及啓発にも力を注いでいる。

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