介護のお役立ちコラム
長年お世話になってきた両親が認知症と診断されたら......。受け入れたくないことかもしれませんが、多くの人が通る可能性のある現実なのです。幸い、認知症はすぐに症状が悪化するものではなく、適切なケアを行えば進行を遅らせることもできます。そして何より、周りの家族があわてることなくじっくり本人と向き合って接することが認知症緩和にもつながります。今回は、身近な人が認知症になった場合の心構えや、どのようなケアが必要になってくるか考えてみたいと思います。
まずは本人の身辺を理解し整理する
家族が認知症になった場合、まず重要なのは問題を一人で抱えこまないこと。
当然初めてのことなので色々と不安でパニックになるかもしれませんが、周囲の人に相談し適切な指示を仰ぎましょう。普段お世話になっている担当医や周りに認知症の家族がいる知人・友人がいる場合彼らに相談してみるのもよいでしょう。もともと同居している場合は心配いりませんが、離れて暮らす両親を迎え入れる場合、高齢者は環境の変化にうまく順応できないということを覚えておく必要があります。一人暮らしが長かった人や田舎から都会に出て来る場合など、急な住環境の変化に惑わされ認知症が悪化するケースがよく見られます。「慣れ親しんだ場所に住まわせてあげたいが一人にしておくのも心配...」と家族は大きなジレンマを抱えることになりますが、本人が同居を受け入れてくれるのかよく相談しておく必要があるでしょう。
また、今まで元気だった人が認知症と診断された場合、「介護保険」が利用できる可能性もあります。住まいのある自治体の窓口に申請をし、認められればその人の症状に応じた介護サービスを受けることができます。近年の法改正で「要介護」よりも軽度な「要支援(1または2)」に認定された場合、今後通所型の介護サービス利用に介護保険が適用できなくなりますが、自治体が独自で行う生活習慣病や要介護の予防プログラムなどを受けることはできるので積極的に利用したいところです。
(介護保険制度についてはこちら:介護保険とは?制度の仕組みから保険料、受けられるサービスまで徹底解説)
認知症の家族と暮らす上での基本的な心構え。「否定しない」「共感を示す」
認知症の人と暮らす上での心構えとして注意しておきたいのが、本人が何を言っても「否定しない」ことと「共感の態度を示す」ということです。例えば、「誰かがワシのことを監視している!」と幻覚症状があった場合でも、「気のせいだよ、誰もいるわけないよ」と頭ごなしに否定したところで本人は納得するはずもありません。「誰か怪しい人がいないか家の外を見てくるね」といった具合にまずは本人に同調するようにしてみましょう。
もう一つ付け加えておきたいのは、羞恥心やプライドは失われないということ。女性の場合、写真を撮ろうとカメラを向ければ「今日は化粧していないからやめてよ」と急に拒絶反応を示すことがあります。男性の場合、現役時代に社会的地位の高かった人はまともに人の話を聞かなかったり、人に指図されるのを嫌ったりする人が多い傾向にあります。ただお互い人間同士。日々の生活の中でコミュニケーションを欠かさず粘り強く本人と接していけば、いつか心を開いてくれるかもしれません。楽なことではありませんが"根気強く"というのは認知症の方の介護をしていく上でとても大切なキーワードになってくるでしょう。
身体介助で気を付けるべきポイント(食事・入浴・排せつ)
認知症の症状が見られる場合、日々の生活動作に対しても気を配り必要があれば適切な介助をする必要があります。気を付けたいポイントを食事、入浴、排せつの3つに分けて考えてみます。
食事
食事は生きていく上で毎日欠かせないものです。食事に大きな喜びを見出している高齢者も多いため、「認知症なんだしどうせ味なんてわからないでしょ」と手を抜くのはNGです。見た目も大事で、おいしそうに盛り付けることも忘れてはいけません。また、一緒に暮らすのならば、なるべく家族一同で食事したいですね。家族団らんでの食事は本人にとってもよい刺激になるはずです。ただし食事のスピードが著しく遅い場合、家族の食べるペースに合わせられず気負いを感じてしまうこともあるので、本人の意志を尊重して決めたいところです。
さらに、嚥下能力(飲み込む力)が衰えている場合、誤嚥(ごえん)による肺炎などを引き起こすリスクがあります。その場合は素材を細かく刻んだ「きざみ食」。とろみ剤などでとろみを付けた「とろみ食」に切り替え誤嚥防止に努めるようにしましょう。
(食事拒否についてはこちら:【原因別】認知症の方に食事を拒否されないための5つのコツ)
入浴
入浴には実に多くの危険が潜んでいます。足元が濡れて滑りやすくなっていて、転んだときに下が硬いタイルだと頭や腰を強打し大ケガをする恐れがあります。この場合、転倒防止マットを敷いたり手すりを取り付けたりすれば大分リスクを軽減できるはずです。
また、浴室では裸になるため、冬場は急な温度の変化による心筋梗塞を引き起こす恐れもあります。事前に脱衣所をストーブで暖めておくようにしましょう。入浴は食事と違い毎日欠かせないものではないので、本人が拒否した場合は無理強いはせず、温めた濡れタオルで清拭する(体をふく)のも手です。専属のスタッフが自宅までやってくる訪問入浴サービスを利用してみてもいいかもしれません。
排せつ
身体介助で最も多くの人がナーバスになるのが排せつケアです。自力歩行が可能な場合でも、認知症が進むとトイレの場所が思い出せなくなり、迷っているうちにもらしてしまうのです。トイレの場所を覚えている場合でも、ADL(日常生活動作)が落ちてくれば、トイレに間に合わないケースもあります。こういった場合、家族は本人の排せつパターンを日ごろから観察しておくようにして、排せつが多い時間帯に事前にトイレに連れていってあげることで下着を汚さずに済みます。/p>
先ほども述べましたが、羞恥心とプライドは認知症が進んでも失われることがありません。誰だって人の手を借りずにトイレは済ませたいもの。寝たきりなどでおむつが必要な生活になったとしても、本人の羞恥心を極力刺激しないよう排せつに対しては十分気を配る必要があります。
(オムツ交換についてはこちら:介護用のオムツを交換するときに知っておくべき手順と心構え)
じっくりと時間をかけ認知症を理解することが大切
突然医師から認知症を告げられたとしても、本人、家族ともになかなか受け入れられるものではないでしょう。完治する病気ではありませんが、投薬により進行を遅らせることも可能です。
(認知症改善の取り組みについてはこちら:認知症は生活習慣の改善で予防できる!?いますぐできる6つの取り組み )
しかし、認知症緩和の最大のカギは、周囲の特に家族の手厚いケアにあると言えます。本人からしたら、最愛の家族に囲まれて暮らせること以上の喜びはないでしょう。初めはわからないことだらけで戸惑うかもしれませんが、認知症の家族とゆっくり時間をかけて対話とケアを重ねていくことが一番の良薬となるはずです。
参考資料・文献:『U-CANの認知症介護マニュアル』ユーキャン学び出版 認知症介護研究会著
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