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老人ホームの費用は医療費控除の対象になる?適用条件と申請方法を解説!

更新日:2025/05/01

老人ホームの費用は医療費控除の対象になるかを解説

親の介護が必要になり、老人ホームへの入居を検討されている方の中には、老人ホームの費用は決して安くないことから、経済的な負担に悩まれている方も多いでしょう。

少しでも費用を抑えるために「医療費控除は使えないのか」と疑問をお持ちの方も多いはずです。

本記事では、老人ホームの費用を医療費控除の対象に適用させるにあたっての具体的な条件や、控除対象となる費用項目を詳しく解説します。 さらに申請手続きの流れや、医療費控除以外の費用軽減制度についても紹介するので、親の老人ホーム入居を検討している方は参考にしてください。



老人ホームの費用も医療費控除の対象となる

医療費控除とは、1月1日から12月31日までの1年間で、自分自身や家族が支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得税の控除を受けられる制度です。

介護保険サービスにおいて、以下の施設サービスが医療費控除の対象となります。

  • ・指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
  • ・指定地域密着型介護老人福祉施設
  • ・介護老人保健施設
  • ・指定介護療養型医療施設(療養型病床群等)
  • ・介護医療院

ただし、有料老人ホームの施設サービス費は原則として医療費控除の対象とはなりません。施設の種類によって控除対象となる費用が異なるため、入居を検討している施設がどのタイプに分類されるかが重要です。

【関連記事】
介護保険サービスとは?種類を一覧でチェック
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参考:医療費控除を受ける方へ|令和6年分 確定申告特集|国税庁


医療費控除の適用条件

医療費控除を受けるためには、医療費の自己負担額が年間で10万円を超える必要があります。

適用条件のポイント

  • ・本人の使用額が10万円未満でも、家族や配偶者など扶養内の人の医療費と合算して10万円を超えていれば利用可能
  • ・所得が200万円未満の方は、総所得金額等の5%が基準額

このように、世帯全体の医療費を合算することで控除を受けられる可能性があるため、家族全員の医療費を把握しておくことが大切です。


医療費控除額の計算式

医療費控除額は以下の計算式で算出します。

(年間で支払った医療費の総額 - 保険金などで補填される金額)- 10万円(所得合計が200万円未満の方は所得の5%)= 医療費控除額(上限200万円)

計算例

  • 年間の医療費総額が50万円で、保険金などによる補填がない場合の
  • ・控除額は「50万円 - 10万円 = 40万円」
  • ・この40万円が所得から控除され、税金の負担が軽減

注意点

  • ・生命保険や医療保険から受け取った給付金がある場合は、その金額を医療費の総額から差し引く必要がある
  • ・医療費控除の上限は200万円


医療控除の対象となる老人ホームの費用項目

老人ホームの種類によって、医療費控除の対象となる費用項目は異なります。

施設タイプ 対象となる費用 対象外の費用
特別養護老人ホーム ・施設サービス費(支払った額の1/2に相当する金額)
・おむつ代
・日常生活費
・特別なサービス費
介護老人保健施設 ・施設サービス費
・おむつ代
・日常生活費
・特別なサービス費
介護医療院 ・施設サービス費
・おむつ代
・日常生活費
・特別なサービス費
介護療養型医療施設 ・施設サービス費
・おむつ代
・日常生活費
・特別なサービス費

<民間施設の場合>

  • ・介護付き有料老人ホーム
  • ・住宅型有料老人ホーム
  • ・サービス付き高齢者向け住宅
  • ・ケアハウス
  • ・グループホーム

これらの施設では、おむつ代のみが対象となり、施設サービス費は対象外です。

主に介護保険サービスの食費や居住費などの施設サービス費が対象となります。またおむつ代も介護保険給付の対象であるため、医師からの証明証があれば控除の対象となります。


医療控除の対象とならない費用項目

以下の費用は医療費控除の対象とはなりません。

  • ・日常生活費(理髪費・被服費など)
  • ・レクリエーションなどの特別なサービス費
  • ・有料老人ホームなどの一部施設の施設サービス費

具体的には、施設での娯楽費、外出時の交通費、新聞や雑誌の購読料、嗜好品(酒類やタバコ)の購入費、一般的な健康増進や疾病予防のためのサプリメント代、美容目的の施術費用なども医療費控除の対象外です。老人ホームの入居一時金や敷金なども、医療行為に直接関連しないため対象となりません。

これらの費用は「生活費」として扱われるため、医療費控除の対象にはなりません。どの費用が対象となるか、入居前に施設に確認しておくことをおすすめします。


施設サービス費が控除対象外となる施設の対象費用項目

有料老人ホームなど、施設サービス費が控除対象外となる施設でも、以下の費用は医療費控除の対象となる場合があります。

対象となる費用

  • ・医療機関に支払った医療費と薬代
  • ・公共交通機関を用いた場合の通院費
  • ・介護サービスの自己負担額(医療費控除対象サービス)
  • ・訪問介護などのサービス利用

対象外の費用

  • ・家賃
  • ・食事代
  • ・管理費
  • ・理美容代
  • ・日用品費
  • ・水道光熱費

有料老人ホームに入居している場合でも、別途医療機関への通院や訪問医療サービスの利用にかかった費用は医療費控除の対象となります。これらの費用も合算して年間10万円を超えるかどうか確認しましょう。


医療費控除の手続き申請の流れ

医療費控除を受けるためには、確定申告を行う必要があります。

申請の流れ

  1. 1年分の医療費明細を保管する
  2. 確定申告期間(2月中旬〜3月中旬)に申告する
  3. 10万円を超えた分だけ、上限200万円の範囲内で所得税が控除される

手続きに必要な持ち物

  • ・医療費控除明細書
  • ・医療通知書
  • ・確定申告書
  • ・本人確認書類

医療費控除の申請には確定申告が必要です。給与所得者も年末調整だけでは医療費控除は受けられないため、別途確定申告をしましょう。

申告期限は翌年3月15日までです。期限を過ぎると還付を受けられなくなる可能性があるため、余裕を持って準備することをおすすめします。

医療費の領収書は提出不要ですが、税務署から求められた場合に備えて5年間は保管しておきましょう。本人による申告が難しい場合は、税理士などの専門家に依頼することも可能です。

なお、医療費控除の還付請求は1月1日以降ならいつでも可能ですので、できるだけ早めに手続きを進めると安心です。


受けている医療系サービスにより控除額が異なる

医療サービスとして痰吸引などを受けている場合、その額が控除対象となります。これは、医療行為として認められるためです。

介護福祉サービスであっても、実施内容の一部に痰吸引などの医療サービスにあたる行為があれば、その1/10相当の額を控除の対象にできます。たとえば、月額10万円の介護サービスを受けていて、その中に医療サービスに該当する行為が含まれる場合、1万円分が医療費控除の対象となる可能性があります。

このように、入居する施設の種類だけでなく、実際に受けているサービスの内容によっても控除対象となる金額が変わってくるため、詳細を確認することが重要です。サービス内容について不明な点があれば、施設の担当者に確認してみましょう。


医療費控除以外に老人ホームの費用を軽減できる制度

老人ホームの費用負担を軽減できる制度は医療費控除だけではありません。以下の制度も活用しましょう。


高額介護サービス費制度

高額介護サービス費制度は、月々の介護サービス利用料の自己負担額に上限を設ける制度です。

制度のポイント

  • ・月額の介護サービス費用のうち、一定額を超えた分が払い戻される
  • ・所得に応じて自己負担上限額が設定される
  • ・一度申請すれば、その後は自動的に該当月に給付される

自己負担上限額(例)

所得区分 月額上限額
一般所得世帯 44,400円
市町村民税非課税世帯 24,600円
生活保護受給者等 15,000円

市区町村の介護保険窓口に「高額介護サービス費支給申請書」を提出することで申請できます。

参考:介護保険 高額介護(介護予防)サービス費の支給|江東区


高額療養費制度

高額療養費制度は、月々の医療費の自己負担額に上限を設ける制度です。

制度のポイント

  • ・月額の医療費のうち、自己負担限度額を超えた分が払い戻される
  • ・年齢や所得によって自己負担限度額が異なる
  • ・70歳以上は特に自己負担限度額が低く設定されている

自己負担限度額(70歳以上の例)

所得区分 月額上限額
一般所得者 18,000円~57,600円
低所得者Ⅱ 8,000円
低所得者Ⅰ 8,000円

加入している健康保険の窓口に「高額療養費支給申請書」を提出することで申請できます。国民健康保険に加入している場合は市区町村の国保窓口に、社会保険に加入している場合は全国健康保険協会や健康保険組合に申請しましょう。

これらの制度を医療費控除と組み合わせることで、老人ホームの費用負担をさらに効果的に軽減できます。

参考:高額療養費制度を利用される皆さまへ|厚生労働省


医療費控除以外に利用できる控除

老人ホームに入居する親の面倒を見ている場合、医療費控除以外にも活用できる税制優遇制度があります。


配偶者控除

配偶者控除は、配偶者の年間所得が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)であれば、納税者の所得から一定額を控除できる制度です。

控除額の目安

  • 一般の配偶者:最大38万円
  • 70歳以上の老人配偶者:最大48万円

確定申告書に必要事項を記入することで、申請できます。配偶者の収入状況を証明する書類も併せて準備しておきましょう。

参考:No.1191 配偶者控除|国税庁


扶養控除

扶養控除は、扶養している親族の年間所得が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)であれば、納税者の所得から一定額を控除できる制度です。

控除額の目安

  • 一般の扶養親族:38万円
  • 70歳以上の老親等:48万円

確定申告書に必要事項を記入して申請できます。申請するにあたり、扶養親族の収入状況を証明する書類を準備しておきましょう。

参考:No.1180 扶養控除|国税庁


障害者控除

障害者控除は、扶養している親族が障害者である場合、障害の程度に応じて所得控除を受けられる制度です。

控除額の目安

区分 控除額 該当する要介護度の目安
一般の障害者 27万円 要介護1〜2(自治体による)
特別障害者 40万円 要介護3〜5(自治体による)
同居特別障害者 75万円 同居の特別障害者

要介護認定を受けていても、自動的に障害者控除の対象にはなりません。市区町村の窓口で「障害者控除対象者認定書」の交付を受ける必要があります。

申請方法

  1. 市区町村の窓口で「障害者控除対象者認定書」を申請
  2. 認定書を取得後、確定申告の際に提出
  3. 認定基準は自治体によって異なるため、事前に確認が必要

要介護認定を受けている親が老人ホームに入居している場合、この控除を利用することで税負担を軽減できる可能性があります。自治体によって認定基準が異なるので、必ず事前に確認しましょう。

参考:No.1160 障害者控除|国税庁


まとめ

老人ホームの費用は種類によって医療費控除の対象となりますが、適用条件や対象費用には注意が必要です。特別養護老人ホームなどの公的施設では施設サービス費の一部が対象となりますが、有料老人ホームでは原則として施設サービス費は対象外です。

医療費控除を受けるには年間の医療費が10万円を超える必要があり、確定申告が必須となります。

また、高額介護サービス費制度や障害者控除など、他の費用軽減制度も併用することで、さらに経済的負担を軽減できます。親の老人ホーム入居を検討している方は、施設のタイプを確認し、適切な控除制度を活用しましょう。



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