さまざまな介護サービスを、1~3割の自己負担で受ける
ことができるのが「介護保険」です。
介護保険の適用範囲とは?知るべき4つのポイント
40歳以上であれば原則として誰もが納める介護保険料。せっかく納付していても適用範囲を理解しきれていない方も多いのではないでしょうか。今回は、介護の負担軽減に一役買ってくれる介護保険の適用範囲や、適用に際して注意するべき4つのポイントについて解説します。
目次
介護保険制度とは
介護保険制度とは、要介護認定において生活の支援や介護が必要と判定された高齢者に対して、要介護度に応じた介護サービスを提供するものです。
介護保険制度は、高齢化の進展に伴い、社会全体で高齢者を支えることを目的として、2000年の介護保険法施行とともにスタートした制度です。現在、介護保険はより社会のニーズに合わせた制度とするため、3年に一度のペースで見直しが行われており、直近では、2021年4月に改正介護保険法が施行されました。
その際、厚生労働省は、地域の高齢者へ向けた包括的な支援体制を整えるための支援や、介護におけるデータ基盤の整備の推進などを発表しており、約600万人の団塊の世代が、全員75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」などを念頭に置いた対策が進められていることがわかります。
詳細は次の記事でも説明しています。
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サービス別の介護保険適用内容
介護保険が適用される介護サービスの範囲は幅広く、被保険者の収入によって異なりますが1~3割の自己負担額でさまざまなサービスを利用できます。ここでは、居宅サービス、施設サービス、介護にかかる諸経費に分けて、適用範囲を解説します。
(1)居宅サービスでの適用範囲
(2)施設サービスでの適用範囲
(3)介護諸経費への適用範囲
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(1)居宅サービスでの適用範囲
介護保険が適用される主な居宅サービスは次の通りです。
●訪問介護
介護福祉士や訪問介護員(ホームヘルパー)が、利用者の居宅を訪れて食事や入浴介助、排せつ介助などの介護サービスを提供します。要支援の方も介護予防訪問介護という形で、要支援1の場合は週2回までの利用が可能(週3回以上の利用は要支援2の方のみ)です。
●通所介護
一般的にデイサービス(通所介護)やデイケア(通所リハビリテーション)と呼ばれる施設に通い、日帰りで食事や入浴などの介護や、日常生活動作訓練などを受けます。
2016年から導入された地域密着型通所介護では、費用は若干高くなりますが、利用者一人ひとりに合わせた、きめ細やかなサポートが可能です。同様の地域密着型サービスとしては、認知症や療養に対応したサービスも提供されています。
●短期入所
一般的にショートステイと呼ばれ、老人短期入所施設などの施設で、一時的な介護サービスや看護を受けるものです。一般的な生活支援を受ける短期入所生活介護と、医学的な処置を受ける短期入所療養介護があります。
(2)施設サービスでの適用範囲
「特別養護老人ホーム(特養)」「介護老人保健施設(老健)」「介護療養型医療施設(療養病床)」など、要介護の認定を受けた方を対象とした介護保険施設における施設サービス費については、介護保険の適用範囲となります。食費や居住費、日常生活費を除く介護サービスにかかる部分が対象です。
また、介護付き有料老人ホームや養護老人ホームなど、厚生労働省の基準を満たして都道府県知事の指定を受けた特定施設などで生活支援や介護を受ける場合も、介護保険の対象となります。
ただし、介護サービスのみに限られ、入居費用や日常生活費用は対象外です。
●介護保険が適用される介護保険施設
以下の3施設で提供される施設サービスには、介護保険が適用されます。いずれも、被介護者が要介護の場合に介護保険の対象となります。
・特別養護老人福祉施設(特養)
...常時介護が必要で在宅での生活が難しい高齢者(要介護3以上)が入居する施設
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・介護老人保健施設(老健)
...高齢者がリハビリなどを経て在宅復帰することを目的とした施設。入居条件は、原則65歳以上で要介護1以上の認定を受けていること
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・介護療養型医療施設
...重度の要介護者へ医療ケアやリハビリを提供する施設で、看護師の人員配置が多く、手厚い医療処置を受けられる。厚生労働省は2024年3月末に介護療養型医療施設を廃止する方針のため、2012年に新設を認めなくなった現状から入居は難しい傾向にある
こちらで紹介した3施設のなかでも、介護老人保健施設や介護療養型医療施設では介護だけでなく、看護や医療処置などの医療ケアも介護保険の適用範囲になっています。詳しくは下記の記事をご確認ください。
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●特定施設入居者生活介護
老人ホームのなかでも、職員の数や設備、運営に関する基準を定めた厚生労働省令を満たして都道府県知事の指定を受けた施設(特定施設)で介護を受ける場合は、介護保険の対象です。
・介護付き有料老人ホーム
(有料老人ホームに該当するサービス付き高齢者向け住宅も含む)
・介護付き軽費老人ホーム(ケアハウス)
・養護老人ホーム(特定施設の認定を受けている場合のみ)
●認知症対応型共同生活介護
地域密着型サービスである認知症対応のグループホームも、介護保険の対象です。食材費やおむつ代などの日常生活費は、別途自己負担となります。
(3)介護諸経費への適用範囲
介護にかかわる諸経費についても、介護保険が適用されるものがあります。
●福祉用具のレンタルや購入
介護に必要な車いすやベッドのレンタル費、また、レンタルが難しい入浴・排せつに必要な福祉用具に関しては、購入費に対して介護保険が適用されます。
●住宅の改修費用
手すりを付けたり、段差をなくすなど、規定の住宅改修に関する費用も介護保険の対象です。保険適用を受けるには、工事前と工事後で2回申請を行う必要があります。
●介護タクシー
ケアマネジャーの作成するケアプラン(介護サービス計画書)において介護タクシーの利用が明記されている場合は、介護保険の対象となります。運賃をのぞく、乗降時や移動の介助が適用範囲です。
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介護保険の対象者条件は?
介護保険の被保険者には、65歳以上の「第1号被保険者」と40~64歳の「第2号被保険者」があり、適用条件が異なります。
第1号被保険者
65歳以上で介護や支援が必要な状態となった場合、介護保険が適用されます。その際、介護が必要となった原因は問われません。
第2号被保険者
40~64歳の医療保険加入者で、介護保険法で規定された末期がんや関節リウマチなど16の特定疾病により介護や支援が必要となった場合のみ、介護保険の適用となります。
介護保険サービスを利用する方法
介護保険の適用には要介護認定の手続きが必要
介護保険の適用を受けるには、どのような介護が必要かを判断するための「要介護認定」を受けなければなりません。要介護認定の結果は、「要支援(1~2)」「要介護(1~5)」「非該当」に分けられ、要支援・要介護と認められた場合に介護サービスが利用できるようになります。
介護保険サービス利用までの流れ
介護保険サービスの利用を開始するために必要な手続きの流れは、以下のようになります。
1. お住まいの市区町村へ要介護認定を依頼し認定を受ける
2. ケアプランの作成
介護(介護予防)サービスを利用する場合は、介護(介護予防)サービス計画書(ケアプラン)の作成が必要となります。
▶予防給付対象者...要支援1~2と認定された方
ケアプラン(介護予防サービス計画書)は、地域包括支援センターに作成を依頼することができます。
▶介護給付対象者...要介護1~5と認定された方
在宅のサービスを利用する場合:居宅介護支援事業者(介護支援専門員)にケアプラン(介護サービス計画書)を作成してもらいます。
施設のサービスを利用する場合:施設の介護支援専門員がケアプランを作成します。
3. 介護サービス利用へ
詳しくはこちらの記事をご確認ください。
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介護保険の適用条件で知っておくべき4つのポイント
次に、下記の介護保険の適用に際して知っておくべき点と注意点を解説します。
(1)介護保険が適用されない施設もある
(2)過剰なサービスは適用範囲外
(3)介護保険の自己負担額が返還される場合もある
(4)介護を必要としない人でも対象になる場合もある
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(1)介護保険が適用されないケースもある
入居する施設の形態によっては、介護保険が適用されないケースがあります。
●住宅型有料老人ホーム
生活支援のみを行う住宅型有料老人ホームでは、施設内で提供されるサービスには介護保険が適用されません。介護が必要となった場合には、外部の事業所に依頼し、訪問介護として介護保険サービスを利用します。
●健康型有料老人ホーム
自立して生活ができる方を対象としているため、介護保険は適用されません。介護が必要となると、退去を求められることがあります。
●特定施設に該当しないサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
サービス付き高齢者向け住宅は、高齢者住まい法に基づく安否確認や生活相談サービスが付帯する賃貸住宅で、その費用は介護保険の対象ではありません。特定施設に該当しないサービス付き高齢者向け住宅では、介護サービスが必要になった場合、別途外部の訪問介護事業者と契約して、介護保険を利用することになります。
●養護老人ホーム
養護老人ホームは主に経済的な事情による自立困難者を対象としており、介護施設には該当しません。そのため、介護保険は適用されません。
(2)過剰なサービスは適用範囲外
介護保険は、介護される人の日常生活を援助することが目的です。そのため、介護サービス利用者本人の助けとならないものや、日常生活上必要でない援助については、サービスの適用外となります。
たとえば、以下のようなものがあげられます。
・利用者家族の食事の用意
・利用者が使用していない居室の掃除
・草むしりやペットの世話
・旅行やレジャーの付き添いや話し相手
(3)介護保険の自己負担額が返還される場合もある
介護サービスを利用する際には、利用できるサービスの上限が決められています。範囲内であれば利用者の負担額は1~3割にとどまりますが、上限を超えた分は全額自己負担です。しかし、自己負担額がきわめて高額になる場合には、一定の限度額を超えた分が後から返還される「高額介護サービス費」という制度が利用できます。
返還を受けるには申請が必要で、負担金額の上限は世帯の所得により異なります。自己負担額が高額になっている場合は、「高額介護サービス費」の対象となっていないか確認しておきましょう。なお、介護保険施設での食費や居住費などの自己負担額や、住宅改修費、福祉用具購入費については対象外です。
また、高額療養費制度に合わせて、2021年8月に高額介護サービス費の限度額が改定されました。介護サービスの利用者または同一世帯に課税所得380万円(年収約770万円)以上で65歳以上の方がいる場合の負担限度額が見直されています。
(4)介護を必要としない人でも対象になる場合もある
現状で介護を必要としない人でも、日常生活能力の低下がみられる要支援1~2と認定されている場合には、介護保険を使って介護予防サービスを受けられます。これを予防給付といいます。要支援1~2の要支援者が受けられる介護予防サービスの事業について、参考として東京都杉並区の提供するサービスを表にまとめました。
訪問型サービス | 通所型サービス |
介護予防訪問事業 | 介護予防通所事業 |
自立支援訪問事業 | 自立支援通所事業 |
訪問型短期集中プログラム | 通所型短期集中プログラム |
▼参考資料はコチラ
東京都杉並区『居宅介護(介護予防)サービスの種類』
また、要介護認定で「非該当」となった場合でも、自治体により介護保険対象外の類似する支援サービスを受けられる場合があります。必要な場合はお住まいの自治体の介護保険課へ相談してみましょう。
介護保険の適用範囲を知って上手に活用しよう
介護保険は、要介護度やサービス内容、提供場所などについて細かく条件が規定されています。一見、同様のサービスに感じられる場合でも、介護保険上の取り扱いは異なる場合もあります。介護保険でどのサービスが利用できるのかをあらかじめ知っておき、上手に利用して介護にかかる費用負担をできるだけ少なくしましょう。
また、細かな制度や利用方法については市区町村で異なる場合もあるため、まずは一度、利用を検討している介護保険サービスに関して市区町村へ確認してみるとよいでしょう。